アールト大学 IDBM留学日記

デザイン × ビジネス × テクノロジー

デザイン史を知ってフィンランドを3倍楽しもう

9月に突入し、IDBMでの2年目がスタートしました。夏休み中は当ブログもSummer Vacationしてましたが、旅に出かけまくったり、修論のためのテーマ探しをしまくったり、友人や家族も遊びに来てくれたりしました。

ゲストが来る時は主にヘルシンキ市内を案内しますが、観光名所を周っても大体は「ふーん」で終わってしまうので、フィンランドのデザイン史とセットで説明を付け加えます。僕の適当なツアーにしては意外とわかりやすいとなかなか好評だったので、去年受けた授業の一つ「Design and Culture」で書いたエッセイから少し内容を引用し、記録しておきたいと思います。フィンランドのデザイン史を少しわかれば観光も一味違った視点で見れ、3倍は面白くなるはずです。

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初期のムーミン人形 - 国立歴史博物館にて撮影

 

フィンランドのデザイン文化とは?

フィンランドと言えばマリメッコイッタラー、ムーミン…!デザインは素敵だよね!」 - これは僕がアールト大学に留学する旨を友人に伝えた時の実際の反応でした。そしてこの友人は間違っていません。この国のデザインは美しく、ユニークで、民主的で、機能的。ブランドは真に独創的な作品を制作し、そのどれもが「フィンランド感」を連想させます。ここで食器を買うのは良い気分です。Walmartでメーカー不明のお皿を購入するより、イッタラーで買う方が断然気持ちいいです。マリメッコで30ユーロの折りたたみ傘をお土産として買うとき、僕は傘ではなく、フィンランドのイメージを買っているのです。そしてこれらは歴史的文脈で戦略的に仕組まれたという事実があり、今日まで続いているのです。僕はこれ自体が悪いことではないと主張しますが、フィンランドのデザインの未来について興味深い議論を引き起こすので、その背後にある歴史を知ることはとても重要です。フィンランドはどのようにこのイメージとデザイン文化を構築したのでしょうか?歴史はそれと何の関係があるのでしょうか?デザインの新しい方向性はどこにあるのでしょうか?これらは、このエッセイで探る問いです。

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Kaj Franckのグラス作品 - Design Museumにて撮影

 

歴史はフィンランドのデザイン文化と何の関係があるのでしょうか?

フィンランドの歴史についての全てが、デザイン文化に関係しています。デザイン文化を歴史的に形作った主なものが一つあります。それは、スウェーデンとロシアの支配から何世紀にもわたって人々に蓄積してきた、国民的アイデンティティを構築するという欲求です。1917年に独立した後、そして特に第二次世界大戦が終了した後、フィンランドにとっては絶望の時代でありました。依然としてソビエトの侵略の恐怖にさらされている間、「フィンランドは一つの国である」という事実を世界に示すことを必要としていました。したがって、1951年のミラノトリエンナーレ(著名なイタリアの美術展覧会)でのフィンランド陣営の成功は、国家と市民にとっての希望、誇り、そして勝利の証となりました。しかし、この勝利は単なる偶然ではありませんでした。外の世界からどのように見られるかを導いたのは、緻密な工作とマーケティング活動の結果だったのです。

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Angry Birds はフィンランドの会社Rovioが作ったもの(結構長い間アメリカ製だと勘違いしていた。。)

 

フィンランドはどのようにこのイメージとデザイン文化を構築したのでしょうか?

1つ目に、Alvar Aalto、Tapio Wirkkala、Armi Ratiaなど、「フィンランド独自」として世界に誇れる多くの才能をタイムリーに持つことができて非常に幸運でした。(※他にも沢山いますが長すぎるので割愛)

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Armi Ratia(マリメッコ創業者)

さらに、成功の背後にはマーケティングの首謀者として行動したHerman Gummerusの努力を忘れてはなりません。彼らは一緒になってフィンランドを独創的な国として見せるために展覧会をひそかに作り上げました。Gummerusはユニークさを示すため、展示に含める作品を注意深く選択しました。絵画など、外国の影響を遠隔的に示唆したものは除外されました。"見え方"を制御するマーケティング努力は、フィンランドのデザイン文化のイメージを構築する上でとても重要だったのです。

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Design Museumの常設展にある、アーティスト活躍の時代別年表。1950,60年代が注目の世代です。

2つ目に、この国のデザイナーが作品に統合したユニークなものの1つが「自然」です。自然というテーマはすべてのアーティストの作品中で一貫しています。Aaltoと木、Kaj Franckとその自然な形と素材、Wirkkalaと氷と水からのインスピレーション...リストは永遠に続きます。自然は風景の中に豊富にあるため、デザイナーの多くが自然を密接に感じるのも不思議ではありません。他の国が展示されていないように、フィンランドのデザインは自然と同義語になったのです。 

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Wirkkalaのコレクション - Ultima Thuleフィンランドの氷がインスピレーションの元です。

 

フィンランドのデザイン文化に問題はあるのでしょうか?

今日に至るまで、フィンランドは過去の成功に大きく恩恵を受けています。僕の友人が「デザインが美しい国!」と言っているのは、デザインを通してどのようにアイデンティティを構築したかを示す現実的な表現です。私自身、外国人としてこの国のデザインの明快な"ステレオタイプ"は好きです。 イッタラーとマリメッコフィンランドのデザインの典型的な代表であることに、安心感があるくらいです。しかしここに潜む問題は、あとどれくらいの間このステレオタイプを維持できるかということです。国民的アイデンティティを構築することは一つのことでしたが、それを絶えず変化する世界と社会に関連させ続けることは別です。Design and Cultureの授業で現地出身の同級生との個人的な会話で、彼女がこのステレオタイプが国際社会にもたらす決まり文句に「退屈している」と言っていたのには驚きでした。

ヘルシンキの学者Minna Ruckenstein氏は、フィンランドのデザインの将来の可能性についての議論で、Gollaと呼ばれるヘルシンキに拠点を置くカバンメーカーについて説明しています。「Gollaはフィンランドデザインの伝統から意識的に距離を置いている」と述べています。また、「フィンランドの伝統的なデザインは、"私たち"と"彼ら"の区別を生み出した。デザイン製品は帰属意識を生み出し、その意味を理解していない人々を排除するようになった」と語っています。興味深いのは、フィンランドのデザインが国民的アイデンティティを作る、という目的を果たしたものの、それが逆に外との境界線を明確化するようになったことです。しかし、これはこの国の長い苦労の歴史が人々のプライドとアイデンティティの欲求を築き上げたため、避けられないのではないでしょうか。

フィンランドのデザインはどこに向かうのでしょうか?

では、この国のデザインにはどのような新しい可能性があるのでしょうか?現在の文化を大切にすると同時に、変化する社会、特にサステナビリティに適応する可能性があると僕は思います。フィンランドとその国民には素晴らしい文化があり、持続可能性に対する意識は驚くべきものです。環境問題には常に国際的リーダーシップを取り、それをデザイン文化に取り入れることは、フィンランドが将来のグローバルコミュニティでリードできると得意エリアの一つです。素材のリサイクルに対する国民の態度も文化の大きな財産です。フィンランド(およびアールト大学)に来る前は、プラスチック製のごみ箱を提供するごみ収集エリアを見たことはありませんでした。ヘルシンキ市によると、PVC(No.3と表示)を除くすべてのプラスチック製品は国内でリサイクルできます。これらはほんの小さな例ですが、フィンランドの将来のために素晴らしいデザイン文化に社会問題を組み込む方法の可能性を示しています。

 

まとめ

要約すると、フィンランドのデザインは、国が誇りに思うことができる、そして誇りに思うべきものであると結論付けます。何世紀にもわたる抑圧は、アイデンティティに対する人々の欲求を築き上げたものであり、Wirkkalaのような才能あるアーティストのタイムリーな登場とGummerusによるマーケティングの努力が、この国とそのデザインに世界でのポジショニングを勝ち取りました。まだ過去の成功に恩恵を受けているかもしれませんが、フィンランドが守るべきユニークな文化資産です。持続可能性に対する国民の態度と意識が非常に高いので、将来の方向性はこの貴重なデザイン文化を維持し、持続可能性の問題をリードすることにより、さらに発展させることに未来があるのではないでしょうか。

 

参考文献

  • Davies, Kevin. “A geographical notion turned into an artistic reality.” Journal of Design History. 15.2 (2002)
  • Kalha, Harri. “Myths and Mysteries of Finnish Design.” Scandinavian Journal of Design History. (2002).
  • Ruckenstein, Minna. “The Changing Value of Design.” Boundless Design. (2011).
  • Smeds, Kerstin. “A paradise called Finland.” Scandinavian Journal of Design History. (1996).

 

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