アールト大学 IDBM留学日記

デザイン × ビジネス × テクノロジー

IDBM Challenge 2018

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IDBM Challengeは、我々IDBM生がINTROの後に取る正式な最初のコースです。先週、3週間に渡るIDBM Challengeが無事終わりました。

IDBM Challenge の概要

今年はこのIDBM Challengeというコースが設けられてから3年目になります。常に改善しながらプログラム内容を書き換えるらしいので、1年目とはだいぶ違った内容だそうです。

 

今年はNordic Rebelsという、北欧エリアの高等教育を推し進める活動組織(フィンランドデンマーク)の一貫として実施されました。この組織も、この授業自体もMiikka J. Lehtonen氏がディレクションしています。Miikka氏は東大のi.schoolでも教えた経験があるそうです。

さて、次世代の教育をビジョンに掲げるNordic Rebelsですが、IDBM Challengeで組み込んだ教育理念の面白い所は、「多様性を主軸としたチームを組み、Wicked Problems(=困難な課題)に挑むプロジェクト型コース」である、ということです。

特徴としては、学習内容が学生によってバラバラで構わない、というところにもあります。年齢も専門性も国籍もバラバラな人たちが集まって、学びのアウトプットが一緒のはずがないという考えです。30代のデザイナーの僕と、20代のビジネス専攻の学生とでラーニングが違って当たり前。多様なバックグラウンドの人達が集まるのだから、このコースで何をラーニングするかも、各自決めるところから始まりました。

IDBM Challengeは全部で3週間ですが、個人での課題をこなすタスクもあり、チームワークの時間(ほとんどこれ)もあり、ゲストレクチャーの時間も沢山ありました。以前書いたCooking Slamもその一貫です。学びの切り口は様々ですが、一貫して「Ideation(考える)→ Validation(検証する) → Execution(実行する)」というプロセスを学ぶフレームに沿っていました。

チャレンジ : Sustainable Development Goals 

今年のチャレンジのテーマは、「持続可能な開発」。国連にはSustainable Development Goals (持続可能な開発目標)という目標があり、貧困、平和、男女平等、地球温暖化、エネルギー、など、17個のカテゴリーを2030年までに全て達成するという具体的な期限も設けられています。それをヘルシンキコペンハーゲンのコンテクストにおいて考えようというお題です(IDBM Challengeではコペンハーゲンにもクラスをとっている学校があります)。そして3週間の最後には調べたことを発表するプレゼンイベント(ペチャクチャナイト)を開催しよう!というシメのお題もありました。

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画像:United Nations Department of Public Information

チーム編成と課題

チームの結成はそれぞれのメンバーの分野(biz, tech, design)を考慮した上で振り分けられました。僕のチームは5名で、フィンランド人、韓国人、ドイツ人、日本人(自分)という構成。そして「NO POVERTY」(貧困をなくそう)のお題を割り当てられました。 

ヘルシンキにおける貧困、の定義

実はこれはものすごく難しい問題だと感じました。世界で比較したらフィンランド社会保障制度が進んでいます。アメリカの様に貧富の差がものすごく広くありません。ヘルシンキのような都会では見方によっては貧困は存在しないという意見もあります。「その日の食料にも困っている人」が街中にそんなにいない、というようなことです(本当に少ないです)。一方で、Bread Queueという低所得者のための食事の無料配布も行われており、列ができるほど並ぶ場合もあるという事実もあります。

悩みに悩んだ結果、僕のチームはヘルシンキにおける貧困とは何か」の定義から始めました。そして書物、オンライン調査、フィールドリサーチ(長期失業者をトレーニングする施設 UUSIX への訪問)を実施。

写真はUUSIXの内部。ミシンの使い方をトレーニングする部屋。

UUSIX

調査した結果をまとめ、貧困とは「長期失業による機会損失、及びそれによって被る物理的・精神的悪循環」ということに到達しました。以下は調査の過程でわかった事実です:

  • 「長期失業」の定義は2年間仕事がなかった人のこと
  • 2018年6月の時点でヘルシンキエリアの長期失業者は22,000人
  • 失業手当はかなり細かく設定されている
  • フィンランドでは文化的に、失業することに対してのスティグマ(恥辱)がある
  • 一度長期失業にハマると抜け出すのが難しくなる 

ヘルシンキの長期失業(による貧困)を解決するソリューション

課題が定義され、それの解決策を模索しました。またまたフィールドリサーチを行い、失業者をケアする組織 HeTy Association や 難民とスタートアップを繋げる会社 The Shortcut へ訪問しました。似た様な課題に挑戦する組織へのインタビューを通じて、解決策のアイデアを模索できると考えたからです。

写真はHeTy Associationの食堂の様子。

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訪問後、考えをまとめた僕等は、失業者と企業が交流できるカフェ「Coffee Instead of Ties」を創設するという解決策を考案しました。

以下はこのカフェの概要です:

  • 物理的エンゲージメントは仕事を探すハードルを下げる
  • ↑ 暖かいコーヒーを飲みながら気軽に交流できる環境ならさらに良い
  • コーヒーという暖かい飲み物は心身の安らぎを高め、物理的交流を促す(フィンランドはコーヒー消費量世界1)
  • 失業に対するスティグマ(恥辱)をできる限り除く
  • 政府の支援プログラムを利用してこのカフェのファンディングをする
  • 企業側は一人採用する毎に金銭的な支援を受けられる

本当にこんな場を必要としている人がいるのか?という問いを検証するためにも、失業者のケアをする施設の人にも念入りに聞いてみました。「とても良い切り口だ。いつオープンするのか」などのコメントもいただけました。実際には仮想のソリューションなので残念ながらカフェをオープンするまでにはいたってないことを伝えました。もしかしたらその組織内において検討できるかもとのこと。

最終イベント - Pechakucha Nightを自分達で開催する

最終イベントはPechakucha  Night(プレゼンイベント)を開催するというものでした。Pechakucha Nightというのは、20枚のスライドをそれぞれ20秒ずつ(6分40秒)で説明するプレゼンテーションイベントです。ロケーション(Maria 01という古い病院跡を利用したスタートアップランド)だけは確保されていたものの、会場設営や客の招待、ドリンクや食べ物の提供など、全部自分達でやりました。プレゼン準備+イベント準備の同時進行で多忙な毎日でした。

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上の写真はイベント開場後すぐの様子ですが、最終的には満席になるくらいのお客さんに来場いただけました。そしてどのチームも完成されたプレゼンテーションを披露。IDBM Challengeは13チームあり、全てのチームがそれぞれ与えられた課題に対する解決策を発表しました。

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直前のリハで僕等のチームのプレゼンの仕立てと流れがイマイチだったいうことに気づき、本番直前まで見直しと練習を行っておりました。最後にはなんとか無事にまとまり、ストーリーのあるプレゼンとして発表できたと思います。

まとめ

  • IDBM Challengeの3週間は密度が濃く、個人的には本当に面白かった
  • 良いチームメンバーに恵まれ、一致団結できた
  • しかも全員結構納得のいく形で物事を進めることができた
  • かなり真剣に取り組んだのでチャレンジングだったが学びも多かった
  • 教授からの丸投げ感がすごい
  • コースの構造上、タスクやデイリーの課題に対して「何故これをやっているのか」を常に自分の中で意識していないとブレる
  • イベント終了後のチームの、そして皆の結束の強さがすごい

明日からの3週間は新しい授業 Corporate Entrepreneurship and Design が始まります。ヘルシンキはもう冬の寒さで「あー風邪ひくなー」と思ってたら予想通り見事に風邪をひきましたが、また気を引き締めてがんばりたいと思います。