アールト大学 IDBM留学日記

デザイン × ビジネス × テクノロジー

修論 『Sustainability vs Culture : 日本の包装文化とサステナビリティを並置する』Part 3

IDBM

 

前回は修論の Literature Review についてまとめました。

 

Part 2はこちら:

aaltoidbm.hatenablog.com

 

Part 1はこちら:

aaltoidbm.hatenablog.com

 

今回はEmpirical Research(実証研究)についてと、そこから導かれた結論を簡単にまとめます。修論シリーズのラスト投稿です。

 

研究の当初定義したリサーチクエスチョンをもう一度振り返ってみると:

  1. 日本のパッケージの現状を形づくる歴史的、社会的、文化的要因は何か?それは今日のサステナビリティとどのように並置するのか?
  2. 日本のパッケージは、日本の社会文化的価値を保ちながら、ますますサステナブルになっていく世界とシンクすることができるか?もしそうなら、どのようにできるのか?

上記の問いの1つ目は前回のLiterature Reviewで明らかになりました。

2つ目の問い探るため、パッケージの製造、流通、使用という3つの異なるポイント(パッケージのエンドを取り巻くステークホルダー)の視点が必要でした。これらのステークホルダーは、Sustainable Packaging Coalition が発表するLife Cycle Assessmentの図から定義されます。

IDBM

Stages in the LCA that directly tie to consumption (Adaptation from SPC)

 

これらの直接的な知識を獲得するため、定性的および定量的な手法を組み合わせた3つの調査方法を使用したのですが、全部書くと長すぎてしまうので、当ブログ記事ではプロフェッショナルへ行ったインタビューについてまとめたいと思います。

インタビューはパッケージデザインに詳しいプロの日本人デザイナー5名と、包装資材メーカーのご担当者1名にお話を伺うことができました。デザイナーの皆さんからは、デザイン哲学やプロセス、そしてその哲学をデザインにどのように具現化するかを聞きました。特に重要だったのは、日本のパッケージデザインが持続可能性とどのように並ぶか、そして日本のパッケージデザインの将来はどこにいくか、を意識しながらディスカッションを進めることでした。メーカーのご担当者とのインタビューでは、業界トレンドや、日本の持続可能な包装の取り組みに対する彼らの考えについて直接聞きました。

 

5人のデザイナーと1つの包装資材メーカーへのインタビュー

インタビューは2020年2月から3月の間に行いました。ディスカッションは日本語で行い、録音された音声から重要な箇所は英語に翻訳しました。収集したデータを構造化するために Inductive Reasoning を適用しました。これは、点と点をつなぎ、共通のテーマを見つけ、理論を誘導する効果的な方法です。インタビューから得た生データから共通のトピックを一次概念としてコーディングし、さらに繰り返されるテーマをまとめ、最後に概念として集計する形です。結果としてデー​​タ構造図が出来上がり、生のデータが抽象的な概念にどのように取り入れられたかを視覚的に表現するのに役立ちます。

IDBM

Data structure leading to aggregate dimensions

 

インタビューからの帰納的推論

僕が行った6つのインタビューからは共通のカテゴリーが浮かび上がり、3つの大きなテーマにまとめることができました。 

  1. 持続可能性に立ちはだかる課題
  2. 日本におけるパッケージの形而上学的文脈
  3. 「時」の観点から見るトレンドの変位

 

以下は、上記3点について簡単にまとめたものになります:


1. 持続可能性に立ちはだかる課題

差し迫った気候変動とSDGs時代の今、日本はこれらを政府の取り組みとしてだけでなく、産業慣行としても取り組むことに目覚めています。あらゆる場所で持続可能性への関心を目にする一方、パッケージの持続可能性は最終製品自体では実現できないことが明らかになりました。これは cultural entity としての日本の体系的な構造を含め、包括的なスケールで扱われなければなりません。そして、持続可能性に立ちはだかる課題として現実的な理由とメンタルな理由の2つがあります。

まず、現実的な理由があります。工場ではラインの小さな変更でさえ、企業には数百万〜のコストがかかる可能性があり、コストが最終製品に反映される可能性があります。値上げされた製品の購入を消費者が拒んでしまうと、この努力が無駄になります。これはサステナビリティのTriple Bottom Line (People, Planet, Profit)と真逆に向かってしまいます。

また、Literature Reiviewからも明らかになった通り、マテリアルの切り替えには独自の欠点があります。例えば、プラスチックの代わりとして紙を使用すると木を使わなくてはならない可能性があり、その影響は言うまでもなく、さまざまなレベルで気候変動に寄与します。

さらに、材料の切り替えによっては製品の損傷リスクも高まる可能性があります。輸送中に(プラスチックの代わりに紙のパッケージによって)製品が損傷した場合、製品を店頭に並べられずに廃棄する必要があり、食品廃棄物が増加します。食品廃棄物が気候変動に与える影響の大きさについては、かなり多くの研究結果と学術論文が出ています。持続可能性は、マテリアルで簡単に切り替えられる単純な「オン/オフ」ボタンではないことがわかります。

上記の現実的な理由のほか、インタビューからはメンタルな課題が明らかになりました。それは、日本は文化として本質的にリスクを嫌い、その特徴はすべての段階に及ぶことです。これは日本の「High Context Culture」における一般的な理解であり、意思決定は、コンセンサスを支持する時間のかかる内部参加型プロセスに基づいています。(High Context Culture = 阿吽の呼吸、空気を読む、暗黙の了解、のような、言葉を用いずに集団で一定の共通認識をするコンセプト)

日本の構造化組織では多くの場合、たとえ小さなことであっても、変更を行うにはさまざまなレベルの承認が必要です。これらの承認が必要とされる理由は、リスクを負うことにより発生する「責任」でしょうか。このような問題は、組織の行動手法と速度を理解するために重要です。当修士論文では Organizational Management のエリアは対象外ですが、日本における持続可能性を考える現実的なステップを踏む際の重要なポイントとして言及されなければいけません。

 

2. 日本におけるパッケージの形而上学的文脈

Literature Reviewでは日本におけるパッケージが特別な意味を持っていることが発見されましたが、その最大の疑問の1つに、それが現代の文脈でどれだけ有効なのかということがありました。定量的調査の結果から、消費者の考え方に関するある程度の洞察が明らかになりましたが、現代の日本のパッケージの意味をもっと理解する上では専門家からの洞察を必要としました。インタビューの結果、形而上学的な文脈に関連する2つのことがわかりました。第一に、特に贈り物として役立つハイエンド製品にとって、パッケージの背景には今でも特別な意味があること。そして第二に、持続可能性を達成するためには、製品を作っている組織(企業)も持続可能性に関する哲学をしっかり持っている必要があること。

恩と義理の社会的概念は、現代の人々がそれを認識しているかどうかにかかわらず、依然として日本の文化を構成するものの主要な部分であるため、贈り物をする習慣は残ると推測されます。より環境にやさしい素材を使用するなどの小さなトレンドへの対応はありますが、根本的な儀式は残るでしょう。インタビューから得られた主要なインサイトの1つは、サステナビリティというものは日本の文脈で検討する必要があるということです。その言葉自体が「エキゾチックな言葉」だと言っても過言ではないかもしれません。

贈り物の文化とパッケージの重要性が残るとしたら、パッケージは日本にとって今後どのようになるのでしょうか?良いニュースは、日本がこのエキゾチックな用語を取り入れてそれをベースに積み上げる能力を持っていることです。たとえば、すべてのデザイナーは、パッケージ(だけに限らずですが)をデザインするとき、製品自体がデザインのインスピレーションになると述べています。さらに、最終パッケージをデザインするだけでなく、パッケージの中の製品のブランドとアイデンティティもデザインしていることがわかりました。多くの場合、クライアント企業は最初に最終パッケージのみのデザイン、という特定の要件でデザイナーにアプローチしますが、デザイナーは一歩下がって製品の背後にあるストーリーを見て、パッケージのインスピレーションを得ます。パッケージがサステナブルになるには、製品そのものも持続可能性を遵守する必要があります。そして、それを製造する企業にも持続可能性の特性が必要になります。さらに、パッケージは​​日本では非常に深い意味を持っているため、パッケージ自体の意味が持続可能になることが不可欠です。

IDBM

Behind sustainable thinking methods and frameworks

上の図はこの理解の構造を抽象的に視覚化したものですが、各層がより広範な概念レベルの上に基づいています。例えば、1つの製品のパッケージを、「プラスチックの代わりに紙を使用して包装がサステナブルになった!」と主張されたとしても、持続可能性を判断するには、その製品自体と会社の基本的な哲学や姿勢を精査する必要があるわけです。

 

3.「時」の観点から見るトレンドの変位

SDGsと持続可能性のテーマが日本でもメジャーになってきた今、今後これをもっと目にすることと推測されます。デザイナーとメーカーのインタビュー対象者のほぼ全員が、ここ数年間で持続可能性に関連する仕事量が明らかに増加したと述べています。そしておそらく、「持続可能性」という言葉自体も国にnormalizeするでしょう。「環境に優しい」や「エコ」というテーマは日本にとって決して新しいものではないです。

江戸時代の約200年間、江戸は自立したコミュニティを持続できていました。外国への門戸を閉ざしていたので、繁栄のために内側を見る以外に他に選択肢はなかったわけです。(江戸時代の生活様式サステナビリティに関しては日本研究家のAzby Brown氏の著書を参照)。江戸のような事例は、日本が持続可能な未来に向けて取り得る可能性を例示しています。日本のサステナビリティの現在の局面を大きな時間の流れの中の一点として見ると、点がつながっているように見え、ストーリーが明確になります。世界は持続可能性を必須の動きとして認識し、日本でもそれが徐々に浸透しつつある、というフェーズになるわけです。

 

結論:日本のパッケージの未来についての考察

当論文では Literature Review(理論的研究)と Empirical Research(実証的研究)の結果を組み合わせて俯瞰し、結論を導き出します。

日本のパッケージとサステナビリティ。一見すると2つの力は異なる方向を向いているように見えましたが、未来ではそれらは並行するだけでなく1つになる ー 日本のパッケージは本質的に持続可能性と同義になる可能性がある、と結論付けます。

IDBM

Juxtaposition of forces becoming synonymous

 

文化と持続可能性が調和した望ましい未来

日本のパッケージを取り巻く望ましい未来は、持続可能性が実現されると同時に、日本の文化的重要性が調和して維持されている未来であると定義したいと思います。その理由は2つあります。まず、この論文で研究されているように、持続可能性は現在のメガトレンドであり、今後の地球にとって間違いなく必要なものです。第二に、日本の文化的重要性は国民の礼儀正しさや、真面目さ、公共および民間のビジネスサービスの正確さ、清潔さなど、日本の国という価値ある特徴の原動力であると考えるからです。

この望ましい未来は現在からかなり大きなステップかもしれませんが、それほど遠い話ではないと考えます。この未来ではビジネス慣行が大きく規制され、生産する事業者がそれぞれ廃棄物を収集する Circular Economics のモデルが実現されます(包装のゴミにそのまま当てはまるわけではありませんが、Patagoniaなどの企業がCircular Economicsの先頭を走る良い事例になります)。

また、材料の革新も大きく進歩し、プラスチックのような材料でも分解して自然に戻ることができるでしょう(プラスチック同等の耐久性を持ち、自然分解可能なマテリアルの例はすでに複数あり)。この革新は、木材や竹、わら、紙のような自然の要素を持っている伝統的な日本のパッケージングアートに似ています(伝統パッケージに関しては岡秀行氏の著書の数々を参照)。パッケージの重要性と、持続可能性がうまくバランスされている例ではないでしょうか。

 

さらなる研究に向けて

この論文では、日本のパッケージの歴史的、社会的、文化的要因を明らかにし、今日のサステナビリティとどのように並置するのかを明確にしました。そしてそれが日本の社会文化的価値を保ちながら、サステナブルになっていく世界とシンクすることができるのか、という問いに対しての結論を導きました。現状のナレッジとのギャップへの新しいナレッジを生み出した一方で、さらなる研究の余地は無限にあることは否めません。その一つに、日本における「神性としての包装」に焦点を当てた研究があると個人的には思ってます。もしこの研究を続けられるとしたら、当論文で出たパッケージの大切さ(物理的+神性的)のspiritualのエリアにさらに一歩踏み込んだ、新しいパッケージの概念を追求してみたいなと考えます。

 

以上で修論シリーズの最後の投稿になります。読んでみると少し割愛しすぎたかなと反省しております。わかりづらかったらごめんなさい🙏

英語にはなりますが、本編はアールト大学に電子格納されておりますので、もし興味があれば読んでみてください。

 

この論文の反応

以前のブログ投稿にも書いた通り、この論文を複数の箇所で発表する機会がありましたが、反応は良かったと思います。また、当論文がきっかけでアドバイザーに声もかけてもらえ、アールト大学で研究の仕事もしつつ、授業のデザインもするという、中々できない仕事につけました。

 

インタビューについて

当リサーチで行ったインタビューは、各対象者のプライバシーを守るため、全て匿名にて調査の参考にさせていただきました。インタビューを受けていただいた皆さまに心より感謝申し上げます。