アールト大学 IDBM留学日記

デザイン × ビジネス × テクノロジー

修論 『Sustainability vs Culture : 日本の包装文化とサステナビリティを並置する』

2019年の夏、僕は東京での夏季休暇を中国からの旧友と共に楽しんでいました。2人でスーパーに立ち寄り、飲み物やスナック菓子を買うと、その友人が突然「日本の商品のパッケージは正直、やりすぎだよね」と言いました。「そうだね」とその場では同意したものの、その理由を明確に説明できないことに気付きました。その夏、僕は日本で買う商品のパッケージの量に注意を払い、その友人の言ったことを考えてみました。確かに、やりすぎのように感じました。

日本のパッケージは過剰なのかーこの単純な疑問を、アールト大学IDBMにおける修士論文の研究テーマの出発点にすることにしました。

これはアールト大学IDBMの2年目で修士論文の研究として行い、発表したものを日本語に訳し、一部を抜粋して書いたものです。

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修論のDefenseで使用したスライドのタイトルページ

背景

時は2020年ーこの惑星の気候は刻々と変化しています。差し迫った気候変動の脅威は、地球の未来を脅かすだけでなく、人間の暮らしや経済活動の基礎となる生産も危険にさらします。この前例のない危機を克服するには、注意深い着目、迅速な対応、国や政府を超えたシームレスなコラボレーションが必要です。

日本はこのレンズを通して見るのが面白いケースです。豊かな歴史と第二次世界大戦後の経済的飛躍は相まって、経済的成功だけでなく、G8等の国際連合における気候変動政策の合意を推進するリーダーの1つにもなりました。

日本は環境保全に非常に積極的です(のように見えます)。 「もったいない」と呼ばれるグローバルな日本語さえあります。これは、まだ使えるものを捨てることに対する「罪悪感」の様な言葉でしょうか。日本のほぼすべての地方自治体には厳格なリサイクル方針が設定されており、多くの市民は協力しています。ごみを45種類に分別することで廃棄物ゼロを目指す徳島県上勝町は、リサイクルと削減への市民の取り組みを表す好例といえるでしょう。

一方で、多くの記事は、過度の物質使用に対する日本の慣習を批判しています。Nikkei Asian Reviewは、日本を「プラスチック廃棄物の一人当たりの生産量で2番目に多い」と指摘し、「持続可能性に対する意識は他の国に比べて遅れている」と指摘しています。

国連のSDG'sの12番目の目標は消費量を削減=梱包材の量を削減することを提唱し、消費/使用量を減らしてリソースを節約することを論じています。過剰な材料使用の事例は、持続可能性のトピックと本質的に矛盾しているようです。

この具体的な例の1つに、日本でお菓子を購入するときに伴う包装の量があります。たとえば、クッキー1つとっても、最終的に商品に到達するまで何層もの包装を剥がさなければいけません。現代の日本の消費者にとって、これは自然なことであり、多くの場合、製品が信頼できることを示しています。また、衛生の問題もあります。大きなパッケージ内にプラスチックの個包装を使用すると、製品の衛生状態が向上します(誰も食べ物に触れなかったことが確実になるためです)。品質と衛生に加え、日本の贈答文化にも包装習慣の原点があります。物事を優雅に、そして重ねて包むことは、尊敬の念の物理的な表現です。日本のパッケージの概念は、西洋での「To pack」という概念よりもはるかに深い意味を持っています。


同僚とのミニ実験

研究の初期段階で、アールト大学IDBMの同僚の2人とミニ実験を行いました。どちらも日本出身ではありません。僕が日本から持ち帰ってきた贈答用の製菓を使い、彼等がパッケージを開いている間に彼らの反応を観察するというものです。この研究は網羅的ではなく、コントロールされた変数を用いて行われたわけでもありません(それぞれに異なる菓子が与えられました)。このミニ実験は、日本のパッケージにめったに接触しない人から直接反応を得ることを意図していました。彼らの「開梱体験」は、僕がサイレント・オブザーバーとしてビデオに記録しました。ここに彼らの発言のいくつかがあります:

 

学生Aからのコメント:

  • 「本当にきれいに梱包されているね!」(開封前に製品を見て)
  • 「すごいな...」(外部の包装紙を外した後、より多くの包装材料を見て)

 

学生Bからのコメント:

  • 「すごい素敵なパッケージだね!」(開封前に製品を見て)
  • 「新しいiPhoneの箱を開ける感じだね」(蓋を開けようとして)
  • 「(パッケージの)量は、このような小さなビスケットには多すぎだよ」(ビスケットを持ちながら)

 

上記の同僚と私が行ったミニ実験から、少なくとも日本人以外の観点からは、パッケージが過剰であると解釈される可能性があることがわかりました。彼等は、パッケージの丁寧さやクオリティに感動していましたが、多くの量の包装材が適用されていることに対して驚いていました。

この実験ではその根本的な理由や、サステナビリティに関連してパッケージで何が起こるべきかについて、それ以上の洞察は得られませんでしたが、異なる方向を向いている2つの力があることは明らかでした(下図)。この論文はそれらの力を理解することであり、それらが同じ方向を向く方法を探ることであるというヒントを与えてくれました。

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Juxtaposition of forces looking in different directions

 

リサーチクエスチョン

この論文の目的は、主に次の2つの質問に答えることです。

  1. 日本のパッケージの現状を形づくる歴史的、社会的、文化的要因は何か?それは今日のサステナビリティとどのように並置するのか?
  2. 日本のパッケージは、日本の社会文化的価値を保ちながら、ますますサステナブルになっていく世界とシンクすることができるか?もしそうなら、どのようにできるのか? 

 

貢献

この論文の目的は、日本のコンシューマープラクティスを批判したり、サプライチェーン内に存在する問題を非難したりすることでも、パッケージの全体像問題に対して単一のソリューションを提供することでもありません。代わりに、これは日本のパッケージを構成する歴史的、文化的、社会的要因を明らかにし、今日の世界における持続可能思考とのギャップを特定することです。パッケージデザインの専門家やパッケージング資材メーカー企業とのインタビュー、そして日本の一般消費者に対するアンケート等、直接的なデータを統合し、この論文では、日本の包装文化にどのような未来があるか、とりわけ持続可能性とどう調和していけるのか、という命題をまとめます。したがって、この論文の貢献は、現在の知識のギャップを埋めることによって生まれる、新しい知識になります。

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Research Area


動機

この論文を進める上で最も重要な問いの1つは、なぜこれを行うのか、でしょう。主な理由は3つあります。

第一に、この論文はいかなるビジネスや企業によってスポンサーされておらず、特定の会社のニーズに応えるものではありません。代わりに、この論文は僕自身の個人的な好奇心と興味に由来しています。僕はイギリスで生まれ、アメリカで育ち、日本でキャリアを築き、フィンランド修士課程を修了することができました。日本にルーツを持っていることを誇りにしながら、国際的なバックグラウンドに感謝しています。一方で、日本の文化やその国を形作る人類学的重要性についてはほとんど知らないのではないかという、潜在的不安がありました。したがって、僕はこの論文を、日本の文化について理解を深める機会として利用したいと考えました。

第二に、僕は2018年にフィンランドに引っ越して以来、サステナビリティに関するトピックの絶え間ない波にさらされています。アールト大学では持続可能性への関心やトピックを嫌という程見聞きします。同時に、自宅のゴミ箱を見て、内容の大部分が梱包材であることに気付きました。パッケージの必要性とそれによって自分自身が環境に引き起こすダメージを考えると、これらの2つの対立する力の問いは興味深いものでした。

最後に、前のポイントを補足して、この論文では日本のパッケージの問題を探っていますが、全体像として、異なる世界間に橋をかけたいと思っています。片方からは、日本のパッケージの原点を明らかにし、もう片方からは、日本の文脈における、持続可能性に関する将来のビジョンを提供します。これをデザイン・ディスコースを通じて世界中の聴衆に結びつけることで、この論文が理論的な貢献だけでなく、具体的な洞察も提供することを期待しています。


この論文がしないこと

この論文は、日本の包装の意味と、その未来を想像することに力を注いでいます。コンテクストを設定するため、贈答用の菓子折をケースに用いていますが、持続可能性自体は複雑な問題であるため、この論文では次の点については触れません。


・本論文では、気候変動という大きな問題自体を主要なトピックとして取り上げていませんが、包括的なテーマとして、行動を起こすことの妥当性と差し迫った必要性が指摘されています。
・本論文では、野菜、果物、ローエンドの菓子類、またはその他の日用品のパッケージなどは対象外としています。
・本論文では、特定の銘柄や種類の製菓を事例として取り上げていません。
・本論文では、パッケージの材料や化学組成を調査しませんが、持続可能性の傾向とイノベーション事例を説明するためにいくつかの例が挙げられています。
・本論文は、パッケージのライフサイクルに特効薬を提供するものではなく、持続可能性のためのチェックリストを提示するものでもありません。

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論文はアールトのアーカイブに保存されているので、興味のある方には参考にしていただけたらと思います。

aaltodoc.aalto.fi