アールト大学 IDBM留学日記

デザイン × ビジネス × テクノロジー

Industry Project 終結とガーライベント「IMPACT」

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ガーライベント:IMPACT

4月の終わりから今週にかけ、忙しい日々が続いておりました。前回のエントリーからまた1ヶ月ほどが過ぎてしまうところでした。

Industry Project の終盤はデザイナー陣のウェイトが本当に重いです。最終プレゼンスライド、動画、展示ブース用の制作物、等等。調子に乗ってこの時期に授業を3つ詰め込んでしまった僕はツケがまわり、忙殺されてしまいました。他の3つの授業もそれぞれチームワークでのプロジェクトが並行したため、スケジュールの調整だけで一苦労でした。

昨日、Industry Projectの終結イベントである「IDBM IMPACT 2019」が開催され、無事に終了しました。今回のエントリーはそのリポートと合わせ、僕等のプロジェクトの紹介も混ぜてのエントリーにしたいと思います。

IDBM IMPACT とは

アールト大学IDBMのIndustry Projectを終結するクロージングイベント。それぞれのチームが5ヶ月間やってきた成果をプレゼンし、ブースにて展示する機会です。会場は市内中心部・ヘルシンキ大聖堂の向かい側にあるホール「Valkoinen Sali」で行われました。

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開場直前 - ホール内の様子

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開場直前 - エントランスの様子

今年の印象

想像していたよりも全チームのアウトプットのクオリティが高かったと思います。クライアントから与えられた課題に対してかなり明確にソリューションを提示していたチームがいくつもあったのには正直驚きました(そこまでうまくいかないだろうと思っていたので)。もちろん課題の抽象度、クライアント企業の姿勢、など様々な要因が絡んでの結果なのですが、他のチームのプレゼンを聞いていて面白いと思ったストーリーが沢山ありました。

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IDBMディレクター、ニーナ・ヌルミ氏による冒頭挨拶

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キーノートスピーカー:アンニ・ハルユ氏。IDBM卒業第1期生(?)だそうです

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全てのプレゼン終了後、ブースにて詳しく説明

僕等のチームの概要

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Lindström

僕等のクライアントは創業170年を迎えるフィンランド老舗「Lindström」という企業でした。数千人の従業員を抱え、20カ国以上においてオペレーションを広げる、オーナー企業ながら大きい企業です。テキスタイル専門の会社なのですが、一番思い浮かべやすいのはフィンランドの(例えば空港や学校、モール等で)トイレの洗面台に良く設置してあるタオルディスペンサーとしての会社です(タオルディスペンサーの中のタオルを製造、配布。外側の箱は外部から調達)。タオルディスペンサーに加え、作業着やマットなど、テキスタイルに関しては幅広くB向けコモディティーを提供しています。近年ではタオルディスペンサーにセンサーを搭載し、タオルがなくなる前に交換シグナルを清掃員のアプリに発信してトイレ利用の顧客エクスペリエンスを担保するIoTシステムを開発するなど、ハイテクエリアにも手を広げ、成長シナリオを描こうとしています。

僕等のチャレンジ

クライアント発表(1月に遡ります)と同時に、クライアントからのチャレンジが提示されました。クライアントから提示されたのは、「上記のIoTタオルディスペンサーから得られるデータを使い、どうトップラインを上げ、顧客獲得とリテンションに繋げるか」といったものでした。そしてこれを聞いた途端、僕は「うっわー..」と思いました。

1つ目の理由は、IoT関連のデータ活用に関しては既に死ぬほど文献が出ている、研究しつくされているエリアだと思ったからです。僕等の5ヶ月というスコープの中に収まらなさそうなテーマ、という点で気が重くなりました。2つ目の理由は、IoTという手段で売り上げをUPするという安直すぎるこの問いがそもそも正しく、向き合う価値があるのかどうか、かなり懐疑的になったからです。

問いの切り口を変更

そして予想通り、始めのデスクトップリサーチ段階でIoT関連を調査していた僕等は割とすぐに壁にぶち当たりました。IoTにおけるデータ活用手法にはパターンが存在し、Lindströmは既にそれらをやっていたのでした(もしくはやろうとしていたのでした) まぁ、そうですよね。

深圳と香港へのリサーチトリップでは主にIoTまわりの現場の深掘り調査を、ヘルシンキではLindströmの顧客である会社や組織をにインタビューを数多く実施しました。そしてそこから見えてきたことが、問いを変更するヒントになりました。

Lindströmの会社のホームページに行くと、この会社のサステナビリティに対する取り組みの姿勢がかなり大々的に記載されているのですが、①競合と比較してもここまで幅広くシームレスにB向けのテキスタイルを提供できている会社は他にないこと②始めから終わりまでサステナビリティに関して気をつけていること、等に注目し、問いに対しての見る角度を改めてみました。

そして当初の「IoTのデータ活用」という一次元的な見方を変え、サステナビリティへの関心を起点としたサービスイノベーション及びデータ活用、というコンセプトが浮かび上がりました。Lindström製品を使うことでどれだけ環境と財布に優しい選択ができているかを視覚化&解析できるインタフェースを提供することで、顧客はより気持ち良く、且つエコノミカルにビジネスができる=リテンションに繋がるのでは、という仮説です。Lindströmにとって大事なバリュー(サステナビリティ)、顧客企業へのメリット(透明性、視覚化)、エンドユーザーの顧客体験向上(かゆい所にも手が回る、より良いサービス)を包容したアイデアが出来上がりました。

データの取得はLindströmが提供するテキスタイルに縫い付けてあるRFIDタグ等から可能なので、使用回数と頻度、回収のタイミングから水、電気、炭素排出を算出するモデルもできます。IoTネットワークから取得できるデータを活用するという初期の課題にも沿う形で結びつけることができました。

始めから終わりまでのプロダクトライフサイクルはテキスタイルであるため、できればリサイクル、できなければダウンサイクルし、サーキュラーエコノミーでいうclosing the loopを実施できていることを証明するプラットホームとしても活用できるため、プロセスも全て公開して透明性をさらに高めるということがLindströmのバリューとも一致したようです。

顧客へのユーザーインタビューから、「Lindströmを選ぶ理由」などを特定でき、この仮説とコンセプトの有効性を実証する時間もとれました(上記の実際の画面デザインやビジュアルなどはここで公開していいのかどうかグレーゾーンです)。

クライアントもこのソリューションにはかなりハッピーだったようですが、個人的な印象では少し寛容すぎるかなとは思いました。会議で問いを変更する相談をするとあっさり「うんいいよ!」と返ってきたのには「え、本当にいいの?」とか思いましたし。

がしかし、僕らの当初の問いを考えると、切り口の変更を快く了承してくれたことは良かったのかと思います。

クライアント先での最終プレゼンでも先方は7人ほど出てきて話を聞いてくれ、想定していた以上のポジティブな反応をもらえました。一部分だけでも実際にimplementされたらいいですね。

以下、Industry Projectを終えての感想のまとめです。

良かったこと

  • オープンでサポーティブなクライアントに恵まれたこと(←これは本当にラッキーであった)
  • 与えられたチャレンジに対してリサーチを経た結果、切り口を変更し、良いと思えるビジネスコンセプトが考案できたこと
  • クライアント企業もハッピーな結果を提案できたこと
  • チームが崩壊せず、プロジェクト終了まで漕ぎ着けたこと 

学んだこと

  • 多様性を常に意識しながらのチームワーク(専門性、ナショナリティ含む)
  • 課題/仮説を再定義するプロセスの大切さ(簡単なようであまりうまくいかない) - 提示された課題が"本当に正しいのか"はもっと深く問いかける必要があるし、できるだけ早い段階でやるべき
  • 結局は問いを探るジャーニーであった

ダメだったこと、改善すべきこと

  • チームの仲は良かったものの、途中であまりミーティングに来なくなってしまうチームメイトもいたこと。仕事や修論と両立してこのプロジェクトをとってる人はどうしても忙しさが倍増しますが、それで他の人の作業ウェイトが重くなってしまうのは残念。2:8の原則で考えると、そんなものかもしれません
  • もっと早い段階で問いのリフレーミングをするべきだったこと
  • 今思い返してもやはり課題とソリューションが少し抽象的だったこと(リフレームした課題をもっと絞っても良かった)

IDBM

これにてIndustry Projectは終結です。IDBMの1年目のメインとなるプロジェクトであり、最も多く時間を割いてきた活動ともしばしお別れ。ほっと一安心すると同時に少し寂しさの余韻が残ります。

あと2週間は別の授業のファイナルプロジェクト等がありますが、暖かくなったヘルシンキは本当に最高すぎるので、室内にこもって机に向かうのが苦痛ですね。