アールト大学 IDBM留学日記

デザイン × ビジネス × テクノロジー

allbirdsのイノベーション - Corporate Entrepreneurship and Design

IDBMの2つ目の授業「Corporate Entrepreneurship and Design」 が終わり、あっという間に3週間がすぎていました。ブログの更新をかなり怠けてしまいましたが記憶がギリギリまだ残っているうちにこの授業の記録をしたいと思います。

Corporate Entrepreneurship and DesignはIDBMの必須科目の一つ。ゴールは企業においてデザイン/イノベーションのアプローチがどのように取られているかを客観的に分析して手法を学ぶ、といったところです。この記事の直前の「Gold&Greenへの訪問」もこの授業の一貫でした。レクチャーや読書に加え、1つの大きなプロジェクトが並行するのが特徴です。このプロジェクトでは「1つの大企業と1つのスタートアップ企業をデザイン観点で比較」するというもので、最後にレポート&そのプレゼンテーションをしておしまい、という流れになります。

講義では主にデザイン思考のアプローチを学ぶといったことが多かったです。自分としては特に新しい発見はありませんでしたが、エンジニアリングやビジネスサイドから参加しているクラスメート達の中には「初めて聞いた」という人もいたのが驚きでした。 

ケース:allbirds(オールバーズ)

この授業のプロジェクト部分も勿論チームベースで進みました。僕等のチームは比較のケースとしてallbirds(オールバーズ)というスタートアップとNikeを比較することにしました。Nikeは誰もが知っているグローバルなスポーツアパレル企業。対するallbirdsはシリコンバレー発祥の環境に優しい靴を製造するメーカーです。もともとはチームメートが提案したのですが、僕は初めて知りました。

プロジェクトはこの2つの企業を比較する形でしたが、今回の記事は自分的に新しい発見と学びがあったという点と、日本ではまだあまり知られてなさそうという点で、allbirdsに焦点をあててこの記事をまとめたいと思います。

allbirdsという企業

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画像:allbirds Presskitより 

allbirdsはシリコンバレー発の地球に優しい靴のメーカーで、創業者のTim Brownはニュージーランド出身の元プロサッカー選手。プロとして活動している中、無限に提供されるスポンサーからの靴に疑問を感じたそうです。「何故こんなに靴が必要なのか?履き心地が良くて地球にもっと優しい靴はないのか?」彼はサッカーを辞め、靴の生産へと旅立っていきました。

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画像:allbirds Presskitより(左がTim Brown、右はJoey Zwillinger)

環境に良い靴を作れないかと思った彼は、クラウドファンディングサイトkickstarterにアイデアを投稿。あっという間に大金が集まってしまいました。パニックに陥り、5日間でキャンペーンを閉鎖。「もしかしたらこれはいけるかも」と思った彼は、奥さんを通じてバイオエンジニアのJoey Zwillingerと知り合い、2人で靴を作り始めました。

サステナブルな靴:Wool

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画像:allbirds Presskitより

allbirdsの信念は「環境に優しく履き心地が最高」な靴を提供すること。全て環境に優しい素材を使用しています。彼らが最初に世に送り出した製品は「Wool(ウール)」と呼ばれる靴です。ウールはニュージーランドのメリノウールを使用(メリノは羊の一種です)。ニュージーランドにおける「羊:人間」の比率が「6:1」という事実を考えると、材料の選択はかなり意味がありますね。ウールを使用することで、従来の合成材料よりも約60%も低いエネルギーで生産が可能なようです。

靴紐はリサイクルされたペットボトルから抽出したポリエステルです。これは従来の靴紐よりもはるかにコストが高いのですが、allbirdsは躊躇することなく、このコストが彼らの信念を実現するために犠牲にできるものだと考えました。靴の中底にはトウゴマの油が使われ、靴が送られる箱の90%はリサイクルされた段ボールが使われます。

Woolのリリースの直後、シリコンバレーではブームになりました。履き心地がよく、環境に優しいという理由で多くのメディアにも取り上げられました。テック業界で働いている人にとってはちょっとした「制服」と化もしたそうです。

※僕自身も米国在住の家族を通じてゲット! 

ロゴなしの靴

履き心地や環境への配慮に加え、注目すべき点は全ての靴がロゴなしというところです。とあるインタビューで、Tim Brown氏は次のように述べています。「私たちがしていることはすべて単純です。ちょうどいい具合の"なにもなさ"をデザインしたいのです。イノベーションとは、時には物事を取り除くことなのです。」Nikeの靴が印象的なSwoosh(あのロゴ)で全てブランディングされている点を比較すると対照的ですね。足し算ではなく、引き算で物事を考える姿勢はアップル社のそれを連想させます。

「ノー」と言うこと

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画像:allbirds Presskitより

allbirdsは「ノー」と言うことに非常に熱心です。顧客とのダイレクトな関係性を担保するため、製品を卸販売することはありません。allbirdsの製品を購入するにはオンラインショップで購入するか、いくつかの直営店舗で買うしかありません(これを書いてる時点では多分米国に2店舗、イギリスに1店舗のはず)。また、靴の販売をするときは1つのデザインではなく、複数のラインを用意してリリースするのが普通のようです。がしかし、allbirdsはただ一つの製品(Wool)にフォーカスして靴をリリース(現在ではWoolに加え、Treeというユーカリの木の成分を活用した靴も出しています)。

戦略や方法がサステナビリティの価値観と合致しない場合、彼らは「ノー」と言うのをためらいません。 

マーケティング戦略

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画像:allbirds Presskitより

allbirdsは当初から、自分達が素晴らしい製品を持っていることを理解していました。広告にはお金をかけず、早い段階からソーシャルメディアと口コミを活用。最初にキャッチした人達はシリコンバレーのテックの人々でした。彼らがこのサステナブルな靴を履き、他の有名人が熱狂に気付き、最終的に全米で口コミで広がりました。僕自身allbirdsのことを散々リサーチしたにも関わらず、オンライン広告が一切ターゲティングされてこないのもかなり気持ちいいです。「良い製品は自ら広まる」という隠された考えがあるのだと思われます。

ソーシャルメディアの活用 

ほとんどの企業はソーシャルメディアを使用して、一方向なコミュニケーションをします。allbirdsはInstagram上では少し異なる角度のアプローチを持っています。彼らは顧客からのフィードバックのためにプラットフォームを利用していると、マーケティング担当は言っています。実際、純粋に顧客の反応に基づき30近い製品改善が行われました。下の図はレポートのために作成したものですが、ユーザーがするコメントのほぼ全てに対して返信していることがわかりますね。くだらないコメントにもちゃんと返信している!

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実際に履いてみて

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肝心の実際の履き心地ですが、本当に気持ちいいです。

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中はフカフカのウール。裸足で履くことに醍醐味があります。ちなみにこれはWool Runner といって、ランニング用の靴なのですが、いくつかのレビューの通り、中の素材的に足が滑る傾向があります。なのでガチなランナーには実は不向きです。ガチランナーは大人しくNikeのflyknitを買いましょう。

Extra

実はこの記事を書いている今日、allbirdsがハイトップのスニーカーをリリースするというニュースがTechcrunchで出てました。

techcrunch.com

ユニコーン企業としてこれからもイノベーティブな製品を出すallbirdsにさらに注目が集まりそうです。

まとめ:allbirdsのデザイン/イノベーションのアプローチ

  • 環境に優しく履き心地が最高、という信念が活動の第一基準
  • たくさんの種類の靴ではなく、限られたものにフォーカス
  • イノベーション = 足し算ではなく引き算
  • 顧客との対話をベースとして改善を重ねる
  • 勝手な想像 → がんばりすぎない姿勢(少なくともそう見える)がクールなんだと思う
  • 実際の履き心地は本当に気持ちいい!