アールト大学 IDBM留学日記

デザイン × ビジネス × テクノロジー

新たなチャレンジへ

2020年も既に9月の半ば。ヘルシンキの気温もぐっと下がり、部屋の暖房もつきました。

IDBM自体は6月に卒業したのですが、卒業セレモニーは9月に実施、、、のはずだったのですが今年は残念ながらキャンセルに。証書を学校のロビーに取りに来るように、とのメールがあったので、取りに行きました。受け取ったあと、友人と学校のあちこちで記念撮影しました。この日は9月3日。写真の履歴を見ると、ちょうど2年前のこの日も学校のロビーで写真を撮っていることに気づきました。2年前の写真と比較すると、僕自身の外見に特に変わりはないようですね。が、2年間を振り返ると、まぁ色々あったなーと、思い出が蘇ってきます。

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2年前と、今と

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校舎Väreの前で

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アールト建築のAmfitheatreにて

 

アールト大学の卒業証書

卒業証書はどんな感じなの、というと、こんな感じです:

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アールト大学MA卒業証書

紙ペラ1枚なのかと思いきや、英語の証書や成績表、説明の文書に加えて、全てフィンランド語バージョンも入ってました。結構厚みのある紙束に驚きました。しかも結構良い紙です。2年間やった重み、みたいなのがありますね。正直、嬉しい。

 

夏の終わり

夏の間は仕事に加え、フィンランドサマータイムを満喫しておりました。

 

仲間と野生のブルーベリーを摘みに行ったり

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仲間と野生のブルーベリーを摘みに

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森中がブルーベリーだらけ。摘むの結構疲れます。

摘んだブルーベリーで、mustikkapiirakka(フィンランド伝統のブルーベリーパイとタルトの中間的なやつ)を作ってみたり

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mustikkapiirakkaを焼き中

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完成-自分にしてはうまくいったと思う

仲間とLinnanmäki(ヘルシンキの遊園地)に行ってジェットコースターに乗ったり(日本のクオリティに比べると全体的にショボいですが、1つ新しいジェットコースターはなかなか迫力あり)

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Linnanmäki遊園地

みんなでSUP(スタンドアップパドル)でヘルシンキの付近の島に上陸してみたり

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ヘルシンキでSUP

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小さな島に上陸

大聖堂の前の広場のアウトドアフードコートでランチを楽しんだり

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長老院広場が夏のアウトドアフードコートに

あとはひたすらアウトドアの自然をエンジョイしていました。

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新学年の始まりと新たなチャレンジ

夏の楽しみの他、仕事の一部でやっているPack-Ageという授業の助手として先生と一緒にコースをデザインしておりました。IDBMで学んだことを活かし、かなりみっちり企画しました。

今月からは新学年が始まり、僕自身も授業のワークショップをファシリテートしたり、アイディエーションやチームワークについてレクチャーをしたりと、意外と教える側に立っております。今までアカデミアでの仕事はどうなのかと思っていたのですが、やってみたら意外と面白い、どころか、自分自身の学びがものすごいと実感。「教える」という行動が「ガチで学ばないといけない」からでしょうか。自分のコンフォートゾーンを完璧に脱していますが、とても充実しています。

フィンランドで、アールト大学で、これからは学生としてではなく、学びの場をどううまく作っていくか、が今の新しいチャレンジです。

 

 

最後に

この回でアールト大学IDBM留学日記も最後になります。

2年前、スーツケース1つ引きずって初めてやってきたフィンランド

 

超適当な日記として始めたこのブログも、良く2年間も続いたなと思います。中学生のような文体で書いた記事も、たまに遡って読んでみるのも個人的には面白いですね。お読みいただいていた皆さま、ありがとうございました。次は仕事の日記でも始めようかな。まだ決めてませんが、そのうち考えます。

最後に、アールト大学IDBMへの留学をサポートしていただいた皆さまの支援なくしてはできなかったと思います。本当にありがとうございました。

 

アールト大学IDBM留学日記

 

IDBM卒業後、フィンランドでの仕事や生活の様子はツイッターでアップしていきます

twitter.com

Climate Leadership Coalitionで登壇しました

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Climate Leadership Coalitionのサイトより

僕がやっているアールト大学での仕事の一つに、Climate Leadership Coalitionという組織のための活動があります。

この組織は何かというと、"環境問題を取り扱うヨーロッパで最大の非営利団体"(CLCサイトより)だそうです。2014年にSitraなど(フィンランドの政府系イノベーションファンド)やフィンランド国内の企業によって設立されました。

2020年6月現在では46の企業、7つの大学、6つの市、6つの貿易組織、4つの研究機関、1つの財団と、1つの労働組合が連立し、構成されています。アールト大学も参画していて、僕の修論のアドバイザーだった先生も関わっている、ということになります。

 

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色んな組織が参画

CLCのサイトから言葉を引用すると、この組織の信念は以下になります:

持続可能な世界は経済的に有益であり、達成が可能であり、賄うことが可能である。

(中略)

私たちは共に、ビジネスを通じて気候変動にプラスの影響を与えることを目指す。CLCは、(政府などの)意思決定者に対し、予測可能で大胆なポリシーと体系的な市場主導型ソリューションを介して投資を誘致することにより、持続可能性の加速をすることを奨励する。 

簡単に言うと、様々な企業・研究機関・政府組織を横断して連立をたて、知識等を共有し、政府などのポリシーメーカーに対して持続可能なソリューションや政策を助言していく、ということになります。

産官学の三位一体で地球の持続可能性に立ち向かう、といったところでしょうか。それぞれ環境に対しての意識が高いフィンランドだから機能する、という感覚はあります。

CLCの活動の軸となるテーマは13個ほどありますが、僕が先生と関わっている部分はCircular Economy(循環型経済)のエリアです。

 

さて、2週間程前のことになりますが、このCLCで、IDBMで書き上げた修士論文をプレゼンさせていただく機会がありました。サーキュラーエコノミーのテーマでのナレッジ共有プレゼン会、みたいな会合で、4人がプレゼンしました。僕以外の3人はアールトの講師・教授でかなり豪華な顔ぶれ。Idil Gaziulusoy教授(アールトではサステナビリティとデザインに関してはスーパースター級の名物教授。Design Researchの授業もこの先生が教えてくれた)も発表していました。自分が横に並んでプレゼンしていいのかって思うようなメンツ。。。

Sitraで発表会があるはずだったのが今回はオンラインで実施(残念。。)当該テーマに興味のあるメンバー30名ほどが聞いてくれました。

エキスパートと並んで発表すること自体が恐れ多かったのですが、質問やコメントをたくさんもらえたのが正直嬉しかったです。(むしろ質問とコメントを一番多くもらえたかもと思っています。先生と教授陣の話は少し専門的に偏ってしまい、知識のバラつきがあるオーディエンスには難しすぎたかも)

 

このような機会をもらえたのはありがたいですね。次に繋がることを期待したい。

皆で創った Living in Finland : Complete Manual

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2019年の夏至近くに行ったVaasaにて

これは今年度のPeriod 2に取ったVisual Narratives in Designという授業での話です。この授業はStorytellingの一つの要素としてビジュアルを様々な形で用いることを総合的に学べる授業でした。この日はZineという個人誌をみんなで作るワークショップがあり、それの記録です。

 

Zineとは

Magazine の zine (ズィーン)に由来します。自分の趣味や好きなことを好きに書いたり、雑誌を切り貼りしたりする「個人による個人のための雑誌」です。完全自己満足で製作されます。日本でも数年前から密かに流行していたみたいですね。同人誌の文化もあるくらいだから理解され易いかもです。

 

皆で作り合うZine

さて、この日はこのZineを皆で作るという面白いワークショップがありました。作り方はとても簡単。A3のコピー用紙を8つに折り、真ん中の2部分に切り込みをいれ、8面の冊子ができあがります。

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A3コピー用紙を8つに折って作ります

皆で作る

通常はZineは個人の自己満足で自分で作るみたいですが、このワークショップでは皆で作る、という点が強調されました。なんでそんなことをするのか、忘れました

 

ルール

ワークショップではいくつかのルールがありました。

  • 表紙と1ページ目だけ自分が書き、何も言わずに別の誰かに渡す
  • 渡された人は、その内容を汲み取って、続きを1ページ書き足す
  • 終わったらまた別の誰かに渡す
  • それを冊子が終わるまで繰り返す
  • 口頭でのコミュニケーションは禁止

 

僕が作ったZine

僕のZineのテーマを何にしようかと考え、かねてよりぼんやりかんがえていた「フィンランドでの暮らし」について始めることにしました。このクラスにはフィンランド人、外国人合わせて20人ほどがいたので、良いミックスだったと思います。

タイトルは「Living in Finland : Complete Manual」です。イラストにウサギのキャラを起用してみました。

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表紙

なんでウサギにしたかは、2019年の夏至近くにVaasaの友人宅に行ったときに見かけたウサギが可愛かったからです。また、このウサギのキャラを次の人が引き継いでくれるか、試してみたかったからです。

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Vaasaで見かけたウサギが可愛かった

 

 1ページ目

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P.1

1ページ目の出だしは僕が書きました。「バス停で待つ際は十分なスペースを空けて並べ

これはフィンランドでの有名なあるあるジョークでもあり、ガチでリアルでもあります。フィンランド人はPersonal Spaceがとても大事です。

 

2ページ目

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P.2

そして2ページ目は別の誰かが書いてくれました。Silence is golden →「沈黙は金

フィンランドではあまりベラベラ喋らない文化です。どことなく日本人に通じている所があるようですね。アメリカで行われるようなSmall Talkはかなり毛嫌いされます。

これを書いてくれた人、ちゃんとフィンランドでの生活ルールという内容を汲み取り、イラストもしっかり引き継いでくれ、ウサギファミリーまで書いてくれてました🐰ミッフィーのような口もいいですね。真ん中のウサギがPulla(フィンランド名物シナモンロール)を持ってます。こういう細かなディテールも盛り込んでくれたのが素晴らしい。

 

3ページ目

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P.3

3ページ目は Use the zebra when crossing the street →「横断歩道の縞々で渡れ

確かに、ここの人は割と横断歩道(そしてさらには信号も)ちゃんと守っていますね。イラストのアングルが上からの鳥瞰図なのがナイスです。タイポグラフィも横断歩道の角度に沿ってレイアウトしてくれました。ウサギの耳とヒゲもちゃんとわかります。

 

4ページ目

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P.4

4ページ目は Queue everywhere, even if there's no need →「何でもなくても列に並べ

これもアルアルです。皆ちゃんと並びます、色々。

 

5ページ目

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P.5

5ページ目は If there's free buckets on display, you better get one! →「無料のバケツはとりあえずもらっておけ

これは若干わかりにくいフィンランドジョークで、僕もこれで始めて知りました。以前、フィンランド国内のどこかでスーパーが新規オープンした際に入場者に記念としてバケツを配ったそうです。これが今では半分ジョーク、半分伝統、みたいになっているようで、「新規開店の際はバケツを配る」のが定着(?)したみたいです。

 

6ページ目

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P.6

6ページ目は Sauna is Holy →「サウナは神聖

出ました。もちろんですね。サウナの様子を物理的なサウナを極力書かずしてうまく表現できています。必要最小限でサウナを描写。うまいですね、この人。

 

裏表紙

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裏表紙

そして裏表紙。最後を良い感じにオチができるか、締めくくれるか、がキーとなります。

この人が書いてくれたのは Most Importantly - Be happy! We are the happiest bunnies in the world →「最も重要なのは幸せでいること!我々は世界で一番幸せなウサギ達なのだから

とてもいい感じに締めくくってくれましたが、実はかなり奥が深いなと思いました。

文字は「幸せでいよう」と書いてありながら、イラストが一人で寂しそうにポツンと座ってるウサギ。顔の表情もそんなに幸せそうには見えません。むしろかなり不機嫌、unhappyにも見えます。皮肉なのか、これはとても的を得ているなと感じました。書いてくれたのはフィンランド人でしょうか。

フィンランドは世界で最も幸福度が高い国の一つ、と言われていますが、現地に住んでみれば、現地の人はそこまでそう思ってないことがわかります。これを書いている今日もフィランドが2020年幸福度が最も高い国1位に選ばれていました。

フィンランド人が実際に幸福かどうかは別途記事を書こうと思いますが、幸福とかいいながらここの国の人は大体ブスッとしてます。決して機嫌が悪いわけではなく、デフォルトとして。少なくとも一般的に思い浮かばれるパラダイスではないことだけは確かに言えると思います。

見事に幸福という外からのプロジェクションと実際の姿の並列を表現して完結してくれました。

 

まとめ

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このZineの共同製作のワークショップ、みんなの冊子の完成度が高く、想像以上に盛り上がりました。正直、僕の冊子も皆ちゃんと書いてくれるとは期待していなかったです。皆それぞれ独特のテーマでZineを始めてたのも見て感心しました。

アウトプットが全く予想できないところも醍醐味です。「喋ってはいけない」など良い意味での混沌が楽しさを倍増させてくれました。いつかワークショップをファシリテーションする際にやってみようかな。アイスブレーカー以上に打ち解けられます。

フィンランドの暮らしのアルアル小冊子、これからも続けてみたいと思います。

JUNCTION 2019でカテゴリー優勝🎉

先週末は、Junctionというハッカソンに参加してきました。

JUNCTIONとは

Junctionとは2015年にヘルシンキで始まったハッカソンです。当時は規模も小さかったようですが今では日本を含む10以上の国で開催されています。今年のヘルシンキ大会はアールト大学のVäreで行われ、1,500人のハッカー達が参加しました。

そして友人が招待してくれたチームで参加し、QOCO Systems が主催するSmooth Travelsカテゴリーで優勝しました🎉🎉🎉

(後ほど聞いたところ、このカテゴリーに挑戦してたのは19チームいたそうです)

チームはプログラミング担当3人、ビジネスサイド担当1人、そしてUI/UXデザイン担当の僕で挑みました。

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JUNCTION 2019 カテゴリ優勝 チームの皆と

僕たちのチームのチャレンジ

僕たちのチームが取り組んだチャレンジは、預け荷物に関わる空の旅の顧客体験を改善するという課題でした。

賑やかな会場で着席した後、超高速でダブルダイアモンド思考法の1つ目を実施し、このハッカソンでフォーカスする課題を炙り出しました。

飛行機に関わる旅行で気になる大きな問題はやはり預け荷物。乗り換えがある場合はもちろん、無事に目的地に着いたのかどうか、荷物回収エリアで待ってる時の不安がどうしてもあります。預け荷物がどこかでなくなった場合、その事実を知れるのがベルトコンベアで待っていて乗客の全ての荷物が出切った後、という点にも注目しました。我々のチームのソリューションはスマホ+NFCチップを利用し、ほぼリアルタイムで預け荷物のステータスを確認できるFinnairのスマホアプリ向けのアドオン、というものでした。このソリューションは航空会社側もそのシステムに投資していて、多くの乗客が当システムを使うことが前提とはなりますが、預け荷物を搬入する航空会社側も作業が効率的になるメリットもあります。

↓の動画は最終的に完成したプロトタイプ。実際にNFCチップを読みとり、自分のアプリと荷物をペアリングする、という機能が動くところまで作りました。

結果発表

イベントは金曜日の夕方から始まり、土曜日は徹夜で作業、そして日曜の朝10時に全て提出。久しぶりに徹夜しました。しかし勝つことよりも重要なことはイベントを皆で楽しむこと。結構本気で楽しみながら作りました。

実は、審査員へのピッチを終えた後、勝てると思ったなかった我々は結果発表の前に帰宅しちゃったのです。そして午後、審査員陣からチームメートに「あれ、君たち何処行ったの?優勝したんだけど賞金いらないの?」という電話があり、皆で驚きました。今週の金曜日に実際にQOCO Sytemsで会社全体にプレゼンしてくれとも頼まれました。ありがたいですね。

まとめ

 

今回のハッカソンで課題を提供してくれたQOCO Systems、そしてイベントを素晴らしいものにしてくれたボランティアの皆さんに何よりも感謝です。

個人的には久しぶりにスマホアプリのUI/UXやったんですが、プログラマーと高速でソフトウェア作る楽しさも思い出しました。また機会があればJUNCTIONにも参加したいですね。 

 

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ATTRACT-EUに参加 / ロッテルダムへの研修

 

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今年はEUのプロジェクトである「ATTRACT-EU」に参加しています。こちらはIDBMのカリキュラムとは全く関係のないプロジェクトなのですが、去年Industry Projectで一緒だったチームメートが誘ってくれ、ありがたく参加させてもらっています。チームは毎度お馴染みのtransdisciplinaryでビジネス学生2人、エンジニア2人、そして僕を含むデザイナー2人で構成されています。お互い知っている者同士で組んでいるため、何かと物事が進みやすいです。

ATTRACT-EUとは何なのか

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欧州連合が主催しているプロジェクトです。ATTRACT-EUのホームページには以下のように書いてあります:

ヨーロッパのGoogleAmazonがないのは何故でしょうか?スウェーデンSpotifyなど、ヨーロッパで人気の新興企業がシリコンバレーに移転したのは何故でしょうか?それは素晴らしい技術や画期的な科学の不足のためではありません。有望なベンチャーがグローバル市場に拡大するメカニズムが機能していないからです。

人々の生活に影響を与えるイノベーションにつながる多くのテクノロジーは、基礎的な研究から生まれています。 ATTRACTは、ヨーロッパの基礎研究と産業コミュニティを結び付け、次世代のDetection / Imaging Technologyをリードする先駆的なイニシアチブです。

目的は、人々の雇用と繁栄のエンジンとなりうる、まったく新しいヨーロッパのオープンイノベーションモデルを作成することです。

欧州連合のHorizo​​n 2020プログラムによって資金提供されたこのプロジェクトは、製品、サービス、企業、雇用を創出することにより、欧州経済の改革と人々の生活の改善を支援することを目的としています。

(About ATTRACTより翻訳/要約)

 

まとめると、新しい技術を持った様々なスタートアップをファイナンスし、研究機関や学校なども巻き込んでヨーロッパにおけるエコシステムを盛り上げようというのが趣旨です。

 

アールト大学と何の関係があるのか

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アールト大学はコンソーシアムパートナー組織の一つに認定されています。アールト大学の施設の一つであるDesign Factoryを通し、学生チームにプロジェクト参加を促しています。学生に公開されているわけではなく、Design Factoryのスタッフが個人的に知っている学生を見つけて話をふっかけている印象でした。

アールト大学は人間中心に捉えることがとても得意なので、技術よりのスタートアップとのタッグはとても相性が良い組み合わせだと思います。

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概念図。多分こんな感じです

Skyechoという企業とのプロジェクト

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僕らが参加している企業はSkyechoというオランダのスタートアップです。Skyechoは高解像度の雨レーダーを開発し、都市へ応用しています(実際のレーダーがロッテルダムで動いています)。世界中の気象予報機関が使っているレーダーのおよそ100倍近い精度で、且つ半径5kmの範囲において、現在〜2時間後の正確な予測が可能なようです。この雨の情報を使って都市の気候に対する弾力性を高める、というのが我々へのチャレンジです。どういうユースケースがあるか?どういうビジネスモデルを生めそうか?都市エリアに住む人々に対して気候の意識を高められるか?などがこのプロジェクトでの我々のミッションです。

 

で、なぜ僕がこのSkyechoとのプロジェクトに参加したのか

個人的に今年の夏に台風や大雨が日本列島を数多く襲ったのは記憶に新しいです。これはなにも今年に限ったことではなく、毎年見ている気がします(正確に計ったわけではありませんが感覚値として)。

 そしてタイムリーなことに9月にGoldman Sachsが「気候変動に対する都市の弾力性」(TAKING THE HEAT : Making cities resilient to climate change)という34ページのレポートを発表しています。内容は以下の通り:

  • 気候変動の規模やタイミングは不明瞭であるものの、そのリスクは大きい
  • より高い気温、より頻繁で強い嵐、農業への影響、食料と水の不足などは脅威
  • その中でも世界のGDPの8割、人口の5割を担う都市への影響は大きい
  • これからのフォーカスは気候変動の抑制ではなく、適応(=adaptation)になる
  • 都市が気候変動に適応する資金を捻出するために革新的なファイナンシング方法が必要になる
  • 限られたリソースの配分において公平性の問題が出てくる(多分フェアではなくなる

あまりハッピーな論文ではないですが読む価値があると思います。ちなみに上記レポートではニューヨークも東京も海面上昇、及び嵐による高潮によって洪水・浸水するリスクが記載されています。近年の台風や大雨の影響を見ている限り、なるほどと思える情報です。 

これからの地球環境と2040年の未来の地球を予測すると、気候変動への対応というテーマは大変興味深いと思いました。ATTRACT-EU、そしてSkyechoとのプロジェクトを通して、気候変動への対応にもっと詳しくことは自身にとって大きな価値になると考えました。都市やビジネスへのマクロ的影響だけではなく、個人のサバイバルのミクロ的問題として捉えることもできると感じます。

 

ロッテルダムへの研修旅行

さて10月の中旬、僕らのチームはSkyechoとワークショップを行うためロッテルダムに旅立ちました。この旅の費用も全てEUの予算から出ています。授業にプロジェクトに、色々な所に行かせてもらえてありがたいです🙏

ロッテルダムではSkyechoの創業チームと直接会って話を聞き、そして一緒にワークショップを開催しました。短時間でたくさんのアイデアを出しプロトタイプまで作って検証してみる、というRapid Prototype Sessionです。プロトタイプに必要な小さな電気道具などを持って行き、最終的に一つ動くものが作れました。創業者が我々の出したアイデアをかなり気に入ってくれ、早速ロッテルダム市のステークホルダーにも話に行ったそうです(早い。。)。

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ロッテルダム到着

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Skyechoが入居するコワーキングスペースCIC

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200を超えるスタートアップが8,000平米のスペースに入居

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とても広くお洒落なワーキングスペース

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Skyechoと共にワークショップする我々

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1つのアイデアのプロトタイプを制作中

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真剣です

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Arduinoと段ボール、針金、モーターを使ってプロタイプが完成!(実際のブツはここで公開できないことをご容赦くださいm(__)m)

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夕方はVenture Cafeというイベントに突入して我々のアイデアを紹介

 

アムステルダムも観光

ロッテルダムで2日間の研修の後は3日ほどみんなでアムステルダムに泊まりました。こちらは完全に観光目的です。

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RIJKS美術館。期待してた「I AMSTERDAM」のサインは撤去されてました。観光客がクレイジーすぎたことが原因のようです。残念。。

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ハイネケン・エクスペリエンス博物館も見物しました。

AR技術や面白いアトラクションをとてもうまく活用した興味深い博物館です。入る価値あります。

アムステルダムではかなり自由に観光でき、秋を楽しみました。インテンシブな1週間でしたがとても内容が濃く、さらには面白いワークショップを行えたのは幸運でした。当プロジェクトは今年度の1年(来年の5月まで)続くので、これからも定期的にアップデートしていけたらと思います。 

 

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IDBM卒業後、フィンランドでの仕事や生活の様子はツイッターでアップしていきます

デザイン史を知ってフィンランドを3倍楽しもう

9月に突入し、IDBMでの2年目がスタートしました。夏休み中は当ブログもSummer Vacationしてましたが、旅に出かけまくったり、修論のためのテーマ探しをしまくったり、友人や家族も遊びに来てくれたりしました。

ゲストが来る時は主にヘルシンキ市内を案内しますが、観光名所を周っても大体は「ふーん」で終わってしまうので、フィンランドのデザイン史とセットで説明を付け加えます。僕の適当なツアーにしては意外とわかりやすいとなかなか好評だったので、去年受けた授業の一つ「Design and Culture」で書いたエッセイから少し内容を引用し、記録しておきたいと思います。フィンランドのデザイン史を少しわかれば観光も一味違った視点で見れ、3倍は面白くなるはずです。

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初期のムーミン人形 - 国立歴史博物館にて撮影

 

フィンランドのデザイン文化とは?

フィンランドと言えばマリメッコイッタラー、ムーミン…!デザインは素敵だよね!」 - これは僕がアールト大学に留学する旨を友人に伝えた時の実際の反応でした。そしてこの友人は間違っていません。この国のデザインは美しく、ユニークで、民主的で、機能的。ブランドは真に独創的な作品を制作し、そのどれもが「フィンランド感」を連想させます。ここで食器を買うのは良い気分です。Walmartでメーカー不明のお皿を購入するより、イッタラーで買う方が断然気持ちいいです。マリメッコで30ユーロの折りたたみ傘をお土産として買うとき、僕は傘ではなく、フィンランドのイメージを買っているのです。そしてこれらは歴史的文脈で戦略的に仕組まれたという事実があり、今日まで続いているのです。僕はこれ自体が悪いことではないと主張しますが、フィンランドのデザインの未来について興味深い議論を引き起こすので、その背後にある歴史を知ることはとても重要です。フィンランドはどのようにこのイメージとデザイン文化を構築したのでしょうか?歴史はそれと何の関係があるのでしょうか?デザインの新しい方向性はどこにあるのでしょうか?これらは、このエッセイで探る問いです。

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Kaj Franckのグラス作品 - Design Museumにて撮影

 

歴史はフィンランドのデザイン文化と何の関係があるのでしょうか?

フィンランドの歴史についての全てが、デザイン文化に関係しています。デザイン文化を歴史的に形作った主なものが一つあります。それは、スウェーデンとロシアの支配から何世紀にもわたって人々に蓄積してきた、国民的アイデンティティを構築するという欲求です。1917年に独立した後、そして特に第二次世界大戦が終了した後、フィンランドにとっては絶望の時代でありました。依然としてソビエトの侵略の恐怖にさらされている間、「フィンランドは一つの国である」という事実を世界に示すことを必要としていました。したがって、1951年のミラノトリエンナーレ(著名なイタリアの美術展覧会)でのフィンランド陣営の成功は、国家と市民にとっての希望、誇り、そして勝利の証となりました。しかし、この勝利は単なる偶然ではありませんでした。外の世界からどのように見られるかを導いたのは、緻密な工作とマーケティング活動の結果だったのです。

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Angry Birds はフィンランドの会社Rovioが作ったもの(結構長い間アメリカ製だと勘違いしていた。。)

 

フィンランドはどのようにこのイメージとデザイン文化を構築したのでしょうか?

1つ目に、Alvar Aalto、Tapio Wirkkala、Armi Ratiaなど、「フィンランド独自」として世界に誇れる多くの才能をタイムリーに持つことができて非常に幸運でした。(※他にも沢山いますが長すぎるので割愛)

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Armi Ratia(マリメッコ創業者)

さらに、成功の背後にはマーケティングの首謀者として行動したHerman Gummerusの努力を忘れてはなりません。彼らは一緒になってフィンランドを独創的な国として見せるために展覧会をひそかに作り上げました。Gummerusはユニークさを示すため、展示に含める作品を注意深く選択しました。絵画など、外国の影響を遠隔的に示唆したものは除外されました。"見え方"を制御するマーケティング努力は、フィンランドのデザイン文化のイメージを構築する上でとても重要だったのです。

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Design Museumの常設展にある、アーティスト活躍の時代別年表。1950,60年代が注目の世代です。

2つ目に、この国のデザイナーが作品に統合したユニークなものの1つが「自然」です。自然というテーマはすべてのアーティストの作品中で一貫しています。Aaltoと木、Kaj Franckとその自然な形と素材、Wirkkalaと氷と水からのインスピレーション...リストは永遠に続きます。自然は風景の中に豊富にあるため、デザイナーの多くが自然を密接に感じるのも不思議ではありません。他の国が展示されていないように、フィンランドのデザインは自然と同義語になったのです。 

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Wirkkalaのコレクション - Ultima Thuleフィンランドの氷がインスピレーションの元です。

 

フィンランドのデザイン文化に問題はあるのでしょうか?

今日に至るまで、フィンランドは過去の成功に大きく恩恵を受けています。僕の友人が「デザインが美しい国!」と言っているのは、デザインを通してどのようにアイデンティティを構築したかを示す現実的な表現です。私自身、外国人としてこの国のデザインの明快な"ステレオタイプ"は好きです。 イッタラーとマリメッコフィンランドのデザインの典型的な代表であることに、安心感があるくらいです。しかしここに潜む問題は、あとどれくらいの間このステレオタイプを維持できるかということです。国民的アイデンティティを構築することは一つのことでしたが、それを絶えず変化する世界と社会に関連させ続けることは別です。Design and Cultureの授業で現地出身の同級生との個人的な会話で、彼女がこのステレオタイプが国際社会にもたらす決まり文句に「退屈している」と言っていたのには驚きでした。

ヘルシンキの学者Minna Ruckenstein氏は、フィンランドのデザインの将来の可能性についての議論で、Gollaと呼ばれるヘルシンキに拠点を置くカバンメーカーについて説明しています。「Gollaはフィンランドデザインの伝統から意識的に距離を置いている」と述べています。また、「フィンランドの伝統的なデザインは、"私たち"と"彼ら"の区別を生み出した。デザイン製品は帰属意識を生み出し、その意味を理解していない人々を排除するようになった」と語っています。興味深いのは、フィンランドのデザインが国民的アイデンティティを作る、という目的を果たしたものの、それが逆に外との境界線を明確化するようになったことです。しかし、これはこの国の長い苦労の歴史が人々のプライドとアイデンティティの欲求を築き上げたため、避けられないのではないでしょうか。

フィンランドのデザインはどこに向かうのでしょうか?

では、この国のデザインにはどのような新しい可能性があるのでしょうか?現在の文化を大切にすると同時に、変化する社会、特にサステナビリティに適応する可能性があると僕は思います。フィンランドとその国民には素晴らしい文化があり、持続可能性に対する意識は驚くべきものです。環境問題には常に国際的リーダーシップを取り、それをデザイン文化に取り入れることは、フィンランドが将来のグローバルコミュニティでリードできると得意エリアの一つです。素材のリサイクルに対する国民の態度も文化の大きな財産です。フィンランド(およびアールト大学)に来る前は、プラスチック製のごみ箱を提供するごみ収集エリアを見たことはありませんでした。ヘルシンキ市によると、PVC(No.3と表示)を除くすべてのプラスチック製品は国内でリサイクルできます。これらはほんの小さな例ですが、フィンランドの将来のために素晴らしいデザイン文化に社会問題を組み込む方法の可能性を示しています。

 

まとめ

要約すると、フィンランドのデザインは、国が誇りに思うことができる、そして誇りに思うべきものであると結論付けます。何世紀にもわたる抑圧は、アイデンティティに対する人々の欲求を築き上げたものであり、Wirkkalaのような才能あるアーティストのタイムリーな登場とGummerusによるマーケティングの努力が、この国とそのデザインに世界でのポジショニングを勝ち取りました。まだ過去の成功に恩恵を受けているかもしれませんが、フィンランドが守るべきユニークな文化資産です。持続可能性に対する国民の態度と意識が非常に高いので、将来の方向性はこの貴重なデザイン文化を維持し、持続可能性の問題をリードすることにより、さらに発展させることに未来があるのではないでしょうか。

 

参考文献

  • Davies, Kevin. “A geographical notion turned into an artistic reality.” Journal of Design History. 15.2 (2002)
  • Kalha, Harri. “Myths and Mysteries of Finnish Design.” Scandinavian Journal of Design History. (2002).
  • Ruckenstein, Minna. “The Changing Value of Design.” Boundless Design. (2011).
  • Smeds, Kerstin. “A paradise called Finland.” Scandinavian Journal of Design History. (1996).

 

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IDBM卒業後、フィンランドでの仕事や生活の様子はツイッターでアップしていきます

フィンランド発・疑似肉で地球を救う!Gold&Greenへ訪問

IDBMの2つめの授業 Corporate Entrepreneurshipの2週目が終わろうとしています。

昨日はこの授業の一環で、麦を使った疑似肉(Pulled Oatsと言ってました)を製造する会社「Gold&Green」に訪問し、事業の内容やビジョンが心に残ったのでそのメモです。 

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疑似肉自体はそれほど新しくもなく、今までに大豆を使った物など色々ありますが、こちらの会社が製造しているのは素材が「麦」ということで注目を浴びています。

Gold&Green について

  • 2015年に創業
  • 創業者のマイヤはデザイナーでアールト大学のIDBM出身
  • 創業者がベジタリアンで肉の代替選択肢が少ないことに疑問をもち、スタート
  • 創業から3年で現在は50名ほどの社員に成長
  • 食料品大手のPauligから出資を受け、会社を51%保有
  • 製品は動物を使わない、保存料を使わない

↓画像は「Nyhtökaura」という製品。Gold&Greenのプレスキットより

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会社説明の担当の方の話

  • Sustainable Food (持続可能な食料品)というのは食料品そのものやパッケージの話だけではなく、ライフサイクルそのもののことを指す
  • 一番最初の製品出荷時はパレット1枚分の量しか製造できなかった
  • 出荷/販売と同時にフィンランド国内で大きなブームが起こった
  • 大豆を使った疑似肉は麦を使ったそれほど環境に良くはない
  • 大豆アレルギーの人もいるので麦のオプションを
  • 寒い北欧でも育つNordic Oatsを使用
  • 肉産業は政府からの助成金が出るが、疑似肉の企業には出ない
  • プロテインビジネスは国内でメガトレンド
  • 環境に優しい(動物を使わない)意識が高まっている
  • Gold&Greenは今までにないカテゴリーと市場を新たに創造することによって業界リーダーになれた

Gold&Greenが大切にしている4つのルール 

  1. Taste(味)いくら環境に優しいとはいっても味が悪ければ消費者は買ってくれない。味の良さには相当R&Dの力をいれている。 
  2. Usage(人との交わり)食料品と人が接触する"インターフェイス" - 既に人間になじみのあるものに仕立てる。
  3. Nutrition(栄養)麦という素材なので栄養価は高い。驚くべきことに肉と同等のタンパク質を引き出すことが可能。
  4. Access(アクセス)消費者が買いやすくするためにスーパーの「肉」と同じコーナーに陳列。

疑似肉で地球を救う

エントランスを入った奥の壁にも書かれているように「For us it matters」(私たちには関係ある)をいうビジョンをすごく重要視しているそうです。動物を使わないこと、ちゃんと栄養をとれて美味しい食料品を提供できること、で本当に地球を救うことに関心があることも担当者から聞けました。

↓画像は創業者とビジョンの壁。Gold&Greenのプレスキットより

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いきなりお題!国外へマーケティングせよ

ただの企業訪問で終わらないところがIDBMっぽいです。「せっかく国際色豊かな皆さんがいるのですから、この疑似肉パティー(ハンバーグみたいなもの)を貴方達の国でのマーケティング案を考えてください。5名で1チームを作って、さあどうぞ!」

担当の方からそんなアナウンスがあり、課題タイムに突入。近くにいた5名でチーム結成。「どこの国にマーケティングしよう?あ、君日本人だね。じゃあ日本にしよう!」ということで日本へどう持ち込むかブレスト開始。制限時間いっぱいの30分で仕上げました。 

出来上がって発表した内容は:

  • 日本ではそんなにビーガン指向や食の環境意識は高くない(けど伸びてるかも)
  • 日本人は味に繊細なので、美味しければまあいけるんじゃない?
  • 「Mugi-burg」という製品名(人々が具体的にイメージし易いように)
  • 日本はフィンランド文化が好き(ムーミンマリメッコ)なので、それをフロントにもってくれば注目されるかも

マーケ担当の方もその場の発表に聞く側として参加。「ムーミン肉 (Moomin-meat)にしよう、という社内ジョークもあるわ」とのフィードバックに一同騒然。

ムーミン肉...!

まとめ

  • Gold&Greenの事業、製品、ビジョンがとても良く分かり、素敵だった
  • これからの食の素材への関心の高さは世界を救うヒント
  • サステナビリティ」や「地球を救う」のようなキーワードに触れる機会が多いこの頃を再認識した 

現地の友人の話によると実際、Gold&Greenの疑似肉は売り切れが続出するほどポピュラーらしいです。次にスーパー立ち寄った際はこの製品や疑似肉を使った地球に優しい肉に注意して買い物をしたいところです。

IDBM Challenge 2018

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IDBM Challengeは、我々IDBM生がINTROの後に取る正式な最初のコースです。先週、3週間に渡るIDBM Challengeが無事終わりました。

IDBM Challenge の概要

今年はこのIDBM Challengeというコースが設けられてから3年目になります。常に改善しながらプログラム内容を書き換えるらしいので、1年目とはだいぶ違った内容だそうです。

 

今年はNordic Rebelsという、北欧エリアの高等教育を推し進める活動組織(フィンランドデンマーク)の一貫として実施されました。この組織も、この授業自体もMiikka J. Lehtonen氏がディレクションしています。Miikka氏は東大のi.schoolでも教えた経験があるそうです。

さて、次世代の教育をビジョンに掲げるNordic Rebelsですが、IDBM Challengeで組み込んだ教育理念の面白い所は、「多様性を主軸としたチームを組み、Wicked Problems(=困難な課題)に挑むプロジェクト型コース」である、ということです。

特徴としては、学習内容が学生によってバラバラで構わない、というところにもあります。年齢も専門性も国籍もバラバラな人たちが集まって、学びのアウトプットが一緒のはずがないという考えです。30代のデザイナーの僕と、20代のビジネス専攻の学生とでラーニングが違って当たり前。多様なバックグラウンドの人達が集まるのだから、このコースで何をラーニングするかも、各自決めるところから始まりました。

IDBM Challengeは全部で3週間ですが、個人での課題をこなすタスクもあり、チームワークの時間(ほとんどこれ)もあり、ゲストレクチャーの時間も沢山ありました。以前書いたCooking Slamもその一貫です。学びの切り口は様々ですが、一貫して「Ideation(考える)→ Validation(検証する) → Execution(実行する)」というプロセスを学ぶフレームに沿っていました。

チャレンジ : Sustainable Development Goals 

今年のチャレンジのテーマは、「持続可能な開発」。国連にはSustainable Development Goals (持続可能な開発目標)という目標があり、貧困、平和、男女平等、地球温暖化、エネルギー、など、17個のカテゴリーを2030年までに全て達成するという具体的な期限も設けられています。それをヘルシンキコペンハーゲンのコンテクストにおいて考えようというお題です(IDBM Challengeではコペンハーゲンにもクラスをとっている学校があります)。そして3週間の最後には調べたことを発表するプレゼンイベント(ペチャクチャナイト)を開催しよう!というシメのお題もありました。

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画像:United Nations Department of Public Information

チーム編成と課題

チームの結成はそれぞれのメンバーの分野(biz, tech, design)を考慮した上で振り分けられました。僕のチームは5名で、フィンランド人、韓国人、ドイツ人、日本人(自分)という構成。そして「NO POVERTY」(貧困をなくそう)のお題を割り当てられました。 

ヘルシンキにおける貧困、の定義

実はこれはものすごく難しい問題だと感じました。世界で比較したらフィンランド社会保障制度が進んでいます。アメリカの様に貧富の差がものすごく広くありません。ヘルシンキのような都会では見方によっては貧困は存在しないという意見もあります。「その日の食料にも困っている人」が街中にそんなにいない、というようなことです(本当に少ないです)。一方で、Bread Queueという低所得者のための食事の無料配布も行われており、列ができるほど並ぶ場合もあるという事実もあります。

悩みに悩んだ結果、僕のチームはヘルシンキにおける貧困とは何か」の定義から始めました。そして書物、オンライン調査、フィールドリサーチ(長期失業者をトレーニングする施設 UUSIX への訪問)を実施。

写真はUUSIXの内部。ミシンの使い方をトレーニングする部屋。

UUSIX

調査した結果をまとめ、貧困とは「長期失業による機会損失、及びそれによって被る物理的・精神的悪循環」ということに到達しました。以下は調査の過程でわかった事実です:

  • 「長期失業」の定義は2年間仕事がなかった人のこと
  • 2018年6月の時点でヘルシンキエリアの長期失業者は22,000人
  • 失業手当はかなり細かく設定されている
  • フィンランドでは文化的に、失業することに対してのスティグマ(恥辱)がある
  • 一度長期失業にハマると抜け出すのが難しくなる 

ヘルシンキの長期失業(による貧困)を解決するソリューション

課題が定義され、それの解決策を模索しました。またまたフィールドリサーチを行い、失業者をケアする組織 HeTy Association や 難民とスタートアップを繋げる会社 The Shortcut へ訪問しました。似た様な課題に挑戦する組織へのインタビューを通じて、解決策のアイデアを模索できると考えたからです。

写真はHeTy Associationの食堂の様子。

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訪問後、考えをまとめた僕等は、失業者と企業が交流できるカフェ「Coffee Instead of Ties」を創設するという解決策を考案しました。

以下はこのカフェの概要です:

  • 物理的エンゲージメントは仕事を探すハードルを下げる
  • ↑ 暖かいコーヒーを飲みながら気軽に交流できる環境ならさらに良い
  • コーヒーという暖かい飲み物は心身の安らぎを高め、物理的交流を促す(フィンランドはコーヒー消費量世界1)
  • 失業に対するスティグマ(恥辱)をできる限り除く
  • 政府の支援プログラムを利用してこのカフェのファンディングをする
  • 企業側は一人採用する毎に金銭的な支援を受けられる

本当にこんな場を必要としている人がいるのか?という問いを検証するためにも、失業者のケアをする施設の人にも念入りに聞いてみました。「とても良い切り口だ。いつオープンするのか」などのコメントもいただけました。実際には仮想のソリューションなので残念ながらカフェをオープンするまでにはいたってないことを伝えました。もしかしたらその組織内において検討できるかもとのこと。

最終イベント - Pechakucha Nightを自分達で開催する

最終イベントはPechakucha  Night(プレゼンイベント)を開催するというものでした。Pechakucha Nightというのは、20枚のスライドをそれぞれ20秒ずつ(6分40秒)で説明するプレゼンテーションイベントです。ロケーション(Maria 01という古い病院跡を利用したスタートアップランド)だけは確保されていたものの、会場設営や客の招待、ドリンクや食べ物の提供など、全部自分達でやりました。プレゼン準備+イベント準備の同時進行で多忙な毎日でした。

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上の写真はイベント開場後すぐの様子ですが、最終的には満席になるくらいのお客さんに来場いただけました。そしてどのチームも完成されたプレゼンテーションを披露。IDBM Challengeは13チームあり、全てのチームがそれぞれ与えられた課題に対する解決策を発表しました。

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直前のリハで僕等のチームのプレゼンの仕立てと流れがイマイチだったいうことに気づき、本番直前まで見直しと練習を行っておりました。最後にはなんとか無事にまとまり、ストーリーのあるプレゼンとして発表できたと思います。

まとめ

  • IDBM Challengeの3週間は密度が濃く、個人的には本当に面白かった
  • 良いチームメンバーに恵まれ、一致団結できた
  • しかも全員結構納得のいく形で物事を進めることができた
  • かなり真剣に取り組んだのでチャレンジングだったが学びも多かった
  • 教授からの丸投げ感がすごい
  • コースの構造上、タスクやデイリーの課題に対して「何故これをやっているのか」を常に自分の中で意識していないとブレる
  • イベント終了後のチームの、そして皆の結束の強さがすごい

明日からの3週間は新しい授業 Corporate Entrepreneurship and Design が始まります。ヘルシンキはもう冬の寒さで「あー風邪ひくなー」と思ってたら予想通り見事に風邪をひきましたが、また気を引き締めてがんばりたいと思います。

Effectuation Theory を料理で学ぶ

Aalto University IDBMプログラムが本格的に始まって3日が経ちました。僕等の一つ目の授業はIDBM Challengeという3週間のインテンシブプログラムなのですが、3日目の今日はEffectuation Theoryという戦略の思考法を料理(IDBMでは"Cooking Slam"と呼んでた)で学ぶ体験で、それが面白かったので記録しておきたいと思います(IDBM Challengeそのものに関しては別記事にまとめたいと思います)。

Effectuation Theory とは

提唱者であるバージニア大学経営大学院のSaras Sarasvathy氏によるとこの考え方は「今あるリソースでなんとかする」ということだそうです。戦略の思考法には2つのタイプがあり、①Managerial Approachと②Entrepreneurial Approachの2つ。

①のManagerialはまず予算、投資対効果、競合分析等を精緻に分析し、目標を設定してそれに向かって進める大企業型のアプローチ。それに対し②のEntrepreneurialは予算もなく、未知の領域を開拓するのであまり目標がハッキリしない起業家型のアプローチ。この起業家型のアプローチをEffectuation Theoryと呼びます。

IDBMの講師の方がわかりやすく説明してくれました:

  • Managerial Approachは「手法と材料がきっちり書かれたレシピで料理することよ」
  • Entrepreneurial Approachは「冷蔵庫に入っているものを使って料理することよ」

なるほど。 

Effectuation Theory を料理で学ぶ?

というわけでこのEffectuation Theoryを身を以て学ぶため、我々IDBM生はヘルシンキにある貸しキッチン/イベントスペースのFlavour Studioに集結しました。待ち受けていたのは、いくつかのテーブルに置かれた食材。それも限られたもののみ。

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お題は、「テーブルの上に乗っかっている食材のみで食事を作る」というもの。料理のバラエティ番組のようです。

各テーブル毎に作る食事の種類が違い、僕が参加したテーブルは「前菜」の担当でした。置かれていた食材は:長ネギ、リンゴ、玉ねぎ、チーズ、バター、ザクロ、等。

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エキストラテーブルに色々他の食材もあり、そちらも使ってよいとのことで、ピーマンとプリングルスもゲット。テーブルの上に置かれた食材は全て使わなければいけない制約があり、味が複雑になりすぎないように配慮が必要でした。

Effectuation Theoryに基づいて作戦会議

幸いにもチーム内に料理に詳しい女性メンバーが数人いたので、テーブル上の食材を使ってどういった料理が作れるか、サクサク議論が始まりました。玉ねぎと長ネギをバターで炒め、それを半切りピーマンの上に乗せ、ザクロの実で飾るといった構想ができあがりました。与えられた時間は1時間ほどのみ。モタモタしていられません。すぐに全員で作業にとりかかりました。

料理のピボット 

ところが作り始めてすぐに運営から「あー、ごめん。ちなみに全員分(約50名分)の量を作らないといけないよ!」とのツッコミがあり「半分に切ったピーマンの中に具をいれる」といった当初のアイデアは圧倒的に数が足りなくなることに気づき、いきなりピボット(方向転換)を実施。人数分が十分に確保できそうなプリングルスに乗せることにしました。

完成

「作りながら検証する」という素晴らしくアジャイルな手法で料理が進み、完成した僕等の前菜はこちら:

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 味も悪くありませんでした。 緑色のものはリンゴの摩り下ろしに青色着色料を混ぜたもの。テーブル上の食材を全て使うため、2種類のバリエーションを作って乗り切りました。 

他のチームは「メイン」や「デザート」などのお題があり、それぞれちゃんと制限時間内に50人分の料理を準備できていたことが何よりの驚きでした。全部のチームの料理を試食することもでき、どれも美味しかったです。

  • その場にあるリソースのみを使う→工夫する
  • 限られた時間内に行う
  • やりながら考え、うまくいきそうになかったらすぐにピボットする
  • チームワーク最優先で結束して遂行する

以上のことが全て行え、Effectuation Theory を体感できるCooking Slamだったと思います。

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まとめ

Effectuation Theoryをチーム料理で体験できたのはとても有意義であり何よりも「fun」でありました。

Managerial か Entrepreneurial、どちらのアプローチが良いかというものではなく、時と場合によって手法が異なります。

Managerialアプローチの目標設定がなければ測定が不可能ですし、Entrepreneurialアプローチのアジャイルさがなければテストのスピードや予想していなかった「ひらめき」との出会いも少なくなりそうです。

両方の考え方をバランス良く取り入れて物事を進めることが大事なのだと学べた1日でした。

デザイン留学受験って何が必要なの?

IDBM

3日前にヘルシンキに到着しました。ヘルシンキはいい天気です。日中は30度いかず、日陰に入れば涼しい感じ。最初の2泊は市内のアパート型ホテルに泊り、昨日、寮タイプの学生向けアパートに引っ越しました。フィンランドでの学生生活も別途記事で更新していきたいと思います。

今日は僕が受験したプロセスについてご紹介いたします。僕が受験したのは大学院(Master's)のプログラムです。例の「ビジネスとデザインが」を軸に探した学校で、アメリカ4校、イギリス1校、フィンランド1校、にそれぞれ応募しました。全て必要なものは共通、でもないのですが、デザイン留学に必要なものは大体の場合、以下になります: 

受験準備編

  • GMATやGREのスコア:いわゆる統一試験です。アメリカの大学院は要求してきましたが、アールト大学は要求されませんでした。僕はGMATを3回受けました。GMAT, GREともに数学と英語の試験になります。
  • ポートフォリオいわゆる作品集です。デザイナーであれば今までにやってきたものがあると思いますので、作ること自体は容易いと思います。大事なポイントは思考プロセスやスキルが伝わること。僕の場合は特別に力をいれていた(そして長く携わっていた)プロジェクトを1つ入念に説明し、割と短期のプロジェクトなどを10個ほど記載しました。思考プロセスとスキル、ビジネスインパクトや社会への貢献等がバランス良く伝わるように気をつけました。
  • TOEFLのスコア:英語が第一ヶ国語の大学を出ていれば免除になるケースもあります。
  • エッセイ:学校によって出題テーマが変わってきますが、「将来どうなりたいのか」、「その将来の目的にこのプログラムはどう役に立つのか」、「何故この学校なのか」のような軸はどこも聞いてくると思います。なんとなく進学して勉強したい、だと説得力がないので、深い自己分析が必要になります。僕も掘り下げて掘り下げて、本当に自分がしたいことはなんなのか、本当に留学がそれを助けるのか、考える良い機会になりました。
  • 推薦状:大体2~3通必要になります。職場の上司や、ファミリービジネスに関わっている場合はクライアントに書いてもらいます。僕も上司やお客様にお願いし、書いていただきました。
  • 受験費用:学校によって違いますが$100~$300くらいです。応募する学校の数が多いと応募するだけで結構な額になります。
  • 応募書類:最近は全てオンラインで済むので便利!途中でもセーブしながら進められます。
  • 成績表:公式な大学の成績表。大学から直接送ってもらう形式がほとんどです。
  • 卒業証書:少ないと思いますが、一部要求してきます。僕の場合、アールト大学でこれに一瞬ハマりました。引っかかった経緯: 応募書類の1つに卒業証書のコピーが必要とのことだったので、 実家においてあったものをコンビニでコピーして送ったらダメと言われる →「行政書士による"認証"をうけてないとだめ」とのことでした。慌てて日本の行政書士事務所に相談するも「海外の大学の証明はできない」 とのこと。この時点で応募の締め切り間近。他の書類や準備は全て揃ってるのに、ここで終わりか!と思ったのですが、ダメ元でボストン大学(僕が卒業した大学)に直にお願いしてみたところ「実物を再発行してフィンランドに直に輸送」 とう形で$150くらいでやってもらいました(高い...)。2週間ほどかかるとのことで、これも応募の締め切りを過ぎてるスケジュールですが、とにかくやってもらいました。そしたらなんと、その卒業証書がアールト大学に到着する前に「書類は全て受領したので選考に入ります」とのメールがきました。先に提出してあった成績表に卒業した事実が明記されていたので通ったのでしょうか。謎ですが、良かったです。

実践編

  • 面接:必要な書類などを期限までに学校に送付したら、あとは面接に呼ばれるのを待ちます。この段階ではもう何もできないので、静かに待ってるのみです。面接は実際にキャンパスに行ってin-personでもできるのがほとんどだと思いますが、僕はskypeと電話で行いました。日本に住んでいることなどを考慮してくれます。
  • アールト大学IDBMの面接:skypeで行いました。スクリーンの向こうにはプログラムのディレクター1名と、教授と思われる方2名の、合計3名いました。履歴書やこれまでの自分のキャリアの経緯を説明し、そのあとは教授からの質問攻め。当然ながら「なんでアールト大学IDBMに入りたいのか」や「デザイナーとしての強みは何か」などを聞かれました。面接準備はかなり入念にやっていたので、スムーズに行うことができました。最後にこちらからの質疑応答がありますが、オンラインに載っているものを聞いてはいけません。たくさんリサーチして得た情報をベースとして踏み込んだ鋭い質問をするように気をつけました(人生どんな場面においてもそうですね)。
  • 面接後:面接をパスしたら、合格通知が届きます。このタイミングで、奨学金の有無とオファーの額が提示されます。アールト大学の結果発表より前に合格通知をもらっていた学校にはお断りの申し入れをし、正式にアールト大学に決めました。

留学受験に関しては大体以上かなという感じです。フィンランドの学生ビザ取得に関してもまとまりそうでしたら書いてみたいと思います(アメリカよりだいぶ簡単です)。

アールト大学International Design Business Managementとはなんなのか

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*当記事は筆者が実際にアールト大学IDBMに留学してから更新しました

IDBMとはどういうプログラムなのか 

今回はアールト大学International Design Business Management (以下IDBM)とは、について書いてみたいと思います。まだプログラムが始まってないので実体験できているわけではありませんが、情報収集時/面接時に知ることができたことベースでシェアしていきたいと思います。 

1文にまとめると、IDBMは「デザイン×テクノロジー×ビジネスの3分野を融合させ、異分野理解を深めたT型人材を育てる修士課程」のプログラムです。

 当プログラムの詳細を紹介するページにはこのように書いてあります:

IDBM educates students with arts, business, science and engineering backgrounds as T-shaped professionals providing them with a strategic view into creative leadership and management of international design-centric businesses, operations, and product and service development. The objective is to gain knowledge in multiple disciplines and to learn to connect one’s own disciplinary expertise to a wider multi-disciplinary, inter-disciplinary and trans-disciplinary design business framework. The global approach of IDBM programme prepares students to work in multi-cultural settings and collaborate across national and cultural boundaries. Graduates of the IDBM programme will be able to manage and lead initiatives and other individuals in order to undertake new business ventures within global environments.

日本語に訳すと以下のような感じ:

IDBMは、デザイン、ビジネス、エンジニアリングの背景を持つ学生をT字型のプロフェッショナルとして育て、ビジネスやオペレーション、製品やサービス開発といった現場において創造的なリーダーシップと戦略的な視点を発揮できるよう、教育の機会を提供します。このプログラムの目的は、異なる分野で知識を習得して自らの専門領域をより幅広いフレームワークに結びつけることです。IDBMが重要視するグローバルなアプローチは、国や文化の境界を越えて協力できるよう学生を訓練します。卒業生は、多文化環境の中で様々な新しいビジネスベンチャーに挑むために組織やチームを導くことができる、いわゆる「T型人材」として世界で活躍することができるでしょう。

IDBMの歴史

*情報はIDBM設立初期の資料やIDBM運営チームとのディスカッションより

International Design Business Management(IDBM)は1995年、ヘルシンキ経済・経営大学(Helsinki School of Economics and Business Administration)、ヘルシンキ芸術・デザイン大学(University of Arts and Design Helsinki)、およびヘルシンキ工科大学(Helsinki University of Technology)の3つの大学間で試験的にスタートを切りました。これは後に上記3つの大学が合併して「アールト大学」として生まれ変わる以前、故Reijo Luostarinen教授によって設立されました。フィンランド教育省によってサポートされたこのコラボレーションは、フィンランドの産業の未来を担う成功要因になると考えられたのです。

当時はそれぞれの大学より10名の学生(合計30名)を集めて始まったこの実験は、企業が常に必要としていた「T型人材」を体系的に育成することに対する答えでした。この実験は修士課程の副専攻(Minorと言われます)として提供され、個人の専門を超えたチームワークを教育理念としたプログラムになりました。

そして時間の経過とともにIDBMのカリキュラムは進化し、社会の動向や業界のニーズに合わせてプログラムの関連性も進化していきました。参加した学生だけでなく業界パートナーからも高く評価されるようになり、IDBMは単なる副専攻以上のものになる必要性が認識されました。

そして2010年、IDBMは修士号の専攻プログラム(Majorとして)として正式に認定されました。これは、科学、デザイン、ビジネスを融合した新しい革新的な大学を設立するための「フィンランド大学改革」の優先プロジェクトとして、アールト大学の設立(UIAH、HSE、HUTの3つの大学の合併による)と並行して行われました。この形成により、IDBMはアールト大学で提供される修士課程の中で学校間を横断して組まれる最初の大学院プログラムとなったのです。

IDBM卒業時に取得できる学位

自分の分野によって取得する学位がそれぞれ違います。ビジネス分野およびエンジニアリング分野はMaster of Science (MS)、デザイン分野はMaster of Arts (MA)になります。僕は後者のMAになります。

IDBMの期間

2年間になります。 

IDBMの学院生構成

このプログラムではデザイン、ビジネス、エンジニアリング、それぞれの分野から12人ずつが参加し、合計で36人で構成されます。授業ではビジネスのクラスもあり、工学のクラスもあり、デザインのクラスもあり、です。異なるバックグラウンドを持つチームメイトでグループを作ることでお互いの強みを発揮し合い、お互いから学ぶ、ということができます(単に講義を聴くだけなら単独でもオンラインでもできる、という思想)。学院生の半分はフィンランド人、もう半分は僕の様な海外からの留学生、と聞いています。

IDBMの授業構成

1年目はrequired (cumpulsory?という単語を使っている)の授業がずらり。2年目からはthesisとelectiveで構成されるので個人における自由度が高いそう。 

Industry Projectという6ヶ月のリアルプロジェクト

IDBMの1年目にはIndustry Projectという、産学連携の6ヶ月間に渡る、リアルプロジェクトがあります。それぞれの分野から2名ずつほどが集まってチームを結成し、IDBMと連携している企業または自治体と一緒にプロジェクトに携わります。実に様々な組織とコラボしているらしく、ヘルシンキ市などの自治体、UNICEFなどの非営利組織、AIRBUSなどの公開企業、などなど。どのプロジェクトもチャレンジングながら楽しそうです。プロジェクトの紹介ページにはティーザーのビデオが掲載されていますが、機密度が高いプロジェクトもあるようで、最終結果が知れないものもあります。

Admission (応募/受験について)

別途記事に書こうと思います。 

アールト大学International Design Business Managementへの留学

IDBM

「おめでとうございます。あなたはアールト大学IDBMの修士課程に合格されました。」

アールト大学IDBMからこんな通知をもらったのは2018年の4月。本格的に大学院留学を決めてから2年ほどのことでした。

僕は2018年の8月より、フィンランドヘルシンキ市にあるアールト大学(Aalto University)のInternational Design Business Management という修士課程プログラムに留学します。

このブログは、UI/UXデザイナーである僕が留学しようと思ったきっかけや受験の準備からプロセス、留学先決定、そして実際に留学先での体験等(←こちらは現地よりリアルタイムで行いたいと思う)にいたるまでを、綴ってみようと思います。書く内容は全て主観ですし、備忘録としての適当なアウトプットですが、少しでもデザインや留学に興味がある方のご参考になれば幸いです。

アールト大学IDBMとは

アールト大学のIDBM (Aalto University International Design Business Management) はテクノロジー、ビジネス、そしてデザインの三つの領域を融合させ、イノベーティブな価値創造プロセスを学習することを目的としたプログラムです。*プログラム自体の内容については別記事で書きます。

留学のきっかけ

そもそも、留学しようと思ったきっかけは、今から2年ほど前になります。僕が勤めていた会社はシステムインテグレーションをメインの事業とする会社でした。早い段階からスマホアプリの受託開発も並行してはじめ、開発だけでなくUI/UXデザインにも力をいれていており、運良くそんな時期に拾ってもらった僕は数々のクライアントのスマホアプリ案件にUIデザイナーとして関わることができました。入社3年目くらいで自社のクラウドサービスにフォーカスすることになり、僕の役割もそのサービスのUI/UXデザインの担当に変わりました。

自社サービスを提供するにあたり、受託案件と決定的に違うのが「売れなければいけない」ということ。受託案件では我々の目標は最終的には「納品」することです。納品さえしてしまえば、そのアプリが売れようが売れまいがあまり関係はありません(もちろんヒットしてお客さんもユーザーも満足ならこの上なし)。それまではデザインオンリーで過ごしてきた自分にとって、「売れること」を意識してデザインをするということはとてもチャレンジングなことでした。ビジネスサイドのことを学ぶためにも、製品のUI/UXだけでなくマーケティング活動にも参加させていただきました。

そんな中、大きく感じていたのが「ビジネス知識の不足」でした。デザインとテックのバックグラウンドを補えるビジネス知識をつけることができれば、プロダクトをもっと良いものに、そして組織をもっとうまくリードできるのではないだろうかと考えるようになりました。そこで「Design, Business」というようなキーワードでGoogle検索し、そのような趣旨の教育プログラムがないか、片っ端から探していきました。いくつもの海外の大学院プログラムがありました。(*受験プロセスについても別記事で書きます)

アールト大学IDBMに決定

受験プロセスを経て最終的にアールト大学IDBMに決めたのは以下の要素です。

  1. プログラム内容(デザイン、ビジネス、テクノロジーにおける領域横断的人材育成)
  2. 住んだことのない国(北欧フィンランド
  3. IT産業やスタートアップカルチャーがある(SLUSHもここ発祥)
  4. オファー内容(運良く学費免除)

とくに「住んだことのない国」は自分の中では強い要素でした。違う言語、違う文化での生活は自分のコンフォートゾーンを飛び出し、大きな自己成長が見込めると思いました。

また、ヘルシンキは海を隔てたその南部にすぐにエストニアのタリンがあります。Skype発祥の地として有名ですが、そのエストニアもスタートアップカルチャーに沸く元気な国。2年間を過ごすのに、インプットできるものはたくさんありそうです。ヨーロッパに住んでいれば他の欧州の国への旅も容易いはず。アールト大学への留学を決めました。

というわけで、はてなブログの利用も初で手探りの状態ですが、少しでも参考になるものがあれば幸いです。

 

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